植物学雑誌
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霧ケ峰草原の生産力と栄養元素循環に関する研究I
霧ケ峰の気候, 土壌および植生
翠川 文次郎岩城 英夫宝月 欣二
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1964 年 77 巻 913 号 p. 260-269

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抄録

山地草原, 特にススキ型およびトダシバ型草原の年間純生産および栄養元素の循環などを明らかにするため,長野県霧ケ峰において, 1959年-1962年の3年間, 一連の調査をおこなった. 本報では,この研究の第I 報として, 霧ケ峰の気候, 土壌および植生分布について報告する.
1. 霧ケ峰草原 (標高1600-1800m) は, 日本各地の山地草原と比較して気温が低く(温量指数=48°), 草の生育期間はほぼ5月-10月の6カ月である.
2. 霧ケ峰草原は大部分, 火山灰によっておおわれ, 土壌の腐植含量はきわめて高く, 硝酸態窒素の含量: は非常に低い. トダシバ型草原の土壌は, ススキ型の土壌とくらべて, Caの含量が著しく低く, 土壌の団粒構造の発達も悪い.
3. 霧ケ峰の各種植生の分布地図 (Fig. 1) を作製し (1960年8月調査), 植生分布と地形との関係をしらべた. 最も分布面積の広いササ型群落は, 主として冬季の卓越風が直接あたる南斜面および尾根の頂上附近に分布し, またススキ型•大形多年生草型は主に北斜面に発達することが明らかにされた(Fig.2). また帯状トランセクト法による調査の結果, 植生分布と積雪量•凍土層の厚さとの間にも関連があることがわかった. すなわち, ササ型群落は冬季の積雪量が少ない風衝地に発達し, 一方, ススキ型•大形多年生草型は, 冬季の積雪量は 1m をこえ, 凍土層の厚さが薄い場所に発達する. 土壌A層の厚さは, 大形多年生草型の場所が最大 (約 90cm), ササ型の場所が最小 (約50cm) であった.
4. 群落地上部の現存量 (8月下旬測定, 乾量) はススキ型•大形多年生草型が最大が 460-500g/m2, それに次いでトダシバ型の 210~260g/m2, ササ型は最小の 190-240g/m2 であった.

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