植物学雑誌
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The Fruit-body Formation in Collybla velutipes Induced by the Lower Temperature Treatment of One Short Duration
Kenjiro KINUGAWAHisahiko FURUKAWA
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1965 年 78 巻 925 号 p. 240-244

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抄録

衣川堅二郎*•古川久彦**: エノキタケの子実体形成に必要な低温について担子菌エノキタケ Collybia velutipes が発生する季節は一般に冬であるから, 子実体原基の形成は冬になって栄養菌糸が経験する比較的低温によって誘導されるのではないかと考えられる. ここでは, 胞子塊から分離した菌糸をエビオス庶糖寒天培地上で培養し, 子実体形成に必要な温度条件をしらべた. 子実体は菌糸を25°に放置すると形成されない. 25°で一週間培養した後15°, 10°または5°の比較的低温に移し放置すると形成される. 次に, 栄養薗糸が子実体形成へ生理転換するのは低温期間の初期と考えられるから, 菌糸をある期間低温にさらし, その後再び25°へ戻して子実体形成を観察した. 低温期間は15°では12時間以上, 10°または5°では2日間以上で効果があり, 1回の処理によってその後の培養中(25°)に子実体があらわれた. 低温処理期間が長い程その効果も強かった. 15°に菌糸を放置して発生してきた子実体原基は, 引続き15°におくか5°-20°の室温に移すと元気に生長を続けたが, それより高い温度に移したときは生長が阻害された. 25°に移したときは貧弱な子実体を生ずるか, または子実体としては不完全な菌糸塊になった. 時には一たんできた原基が栄養菌糸によって圧倒された. 低温処理後25°の下に発生してくる子実体の場合も, 貧弱なものか, または原基の状態のまま発育しないものであった. 一方, 栄養菌糸は22°-26°において旺盛に生長した. すなわち, 子実体の形成および生長の両者に適当な温度はほぼ一致しているが, それは栄養歯糸の生長には不適当な温度の範囲にあった. (京都大学農学部応用植物学教室 *現在, 大阪府立大学農学部 **現在, 農林省林業試験場保護部)

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© The Botanical Society of Japan
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