抄録
背景・目的: 近年, 糸球体硬化と動脈硬化の類似性が指摘され, 高脂血症の悪化により腎炎の進展が促進されるとする lipid nephrotoxicity 仮説を支持する報告が相次いでいる。しかし, 現在広く使用されているスタチンは腎障害患者には慎重投与すべきであるとの指針も出されている。そこで, 肝・胆汁排泄性, 脂溶性であるアトルバスタチンが慢性腎疾患患者において安全かつ有効に使用できるかどうか, さらには腎疾患に及ぼす影響について検討した。
対象・方法: 東京慈恵会医科大学第三病院腎臓・高血圧内科に外来通院中の高脂血症合併腎疾患患者でアトルバスタチンを新規もしくは他剤からの切り替えで開始した84例。平均年齢は57.1歳で男性30例, 女性54例であった。腎機能別に3群 (腎機能正常群37例, 中等度腎機能障害群34例, 高度腎機能障害群13例) に分けてアトルバスタチン開始前, 開始後3, 6, 12カ月で脂質, 肝機能, CK, 腎機能を測定し有効性, 安全性について検討した。また, 投与開始前および12カ月後の尿蛋白排泄量, 腎機能 (Ccr) を比較検討し腎機能に及ぼす影響を評価した。
結果: 腎機能別の各群においてTC, LDL-Cは3カ月後に有意に低下し12カ月後まで持続した。TGも低下傾向を認めたが有意ではなかった。一方,各群とも肝機能やCK値, 腎機能はほとんど変化がなかった。蛋白尿は新規投与群で有意な減少を認めたが, 切替群では有意ではなかった。また, RAS抑制薬併用群で有意な蛋白尿減少を認めたが, 非投与群では有意ではなかった。尿蛋白減少量とTCの低下率との間に有意な正の相関を認めた。
結論: Cr 3mg/dL以上の腎不全を含めて, 高脂血症合併腎疾患患者においても定期的にモニタリングを行うことでアトルバスタチンは安全かつ効果的に外来継続投与できる。また, 尿蛋白減少効果, さらにはRAS抑制薬との併用によって相加的な尿蛋白減少効果も期待できる可能性が示唆された。