2021 年 112 巻 1 号 p. 1-10
(目的) 大腿骨近位部骨折(頚部骨折および転子部骨折)後に尿閉や残尿を伴う尿路感染症を日常臨床でしばしば経験するが,骨盤内に骨折が及ばず排尿に関わる神経系が損傷を受けない本疾患で尿排出障害を発症する病態は明らかでない.そこで,大腿骨近位部骨折における尿排出障害に関連する因子を探索的に検討した.
(対象と方法) 大腿骨近位部骨折術後患者において,尿道カテーテル抜去後の残尿に対して導尿を要した割合と,骨折部位の違い,疼痛,座位保持能力,股関節屈曲力,そして術後慢性期の腸腰筋体積との関連について検討した.
(結果) 頚部骨折に比べて転子部骨折で導尿を要した割合が高く(11% vs. 41%),股関節屈曲力が低下していた.転子部骨折の導尿なし群に比べて導尿あり群では腸腰筋の大腿骨付着部である小転子に骨折がおよぶ不安定型(Jensen分類タイプIII~V)が多く,股関節屈曲筋力が有意に低下していた.転子部骨折の小転子なし群に比べて小転子損傷あり群で導尿を要する割合が高かった(23% vs. 51%).
(結論) 大腿骨近位部骨折術後の尿排出障害に関連する因子として,骨折部位,姿勢保持に関連する股関節屈曲力,小転子の損傷の有無,そして腸腰筋体積の関連が示唆された.よって,大腿骨近位部骨折の術後では,完全排尿のための姿勢保持能力の低下に伴い残尿が増加し,導尿を要する割合が高くなった可能性がある.