日本泌尿器科學會雑誌
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ヒト精路内精子輸送機構の研究
ヒト精路を使用した in vitro の薬理学的実験
成田 晴紀
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1983 年 74 巻 10 号 p. 1734-1748

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抄録

ヒト精路52標本を使用し, 精路各部位の in vitro での薬理学的実験を行い, その内41標本につき精路各部位別のノルエピネフィリンに対する反応を観察し, 次の結果を得た.
1) 精巣上体尾部 自発性収縮が高頻度にみられ, この収縮の振幅も他の部位のものに比し, 明らかに 大きい. しかし, ノルエピネフィリンによる最高収縮力は精管より低値を示し, 一方, ノルエピネフィリンに対する感受性は他の部位に比しもつとも高く, 低濃度のノルエピネフィリンより反応した.
2) 精管近位精管より遠位になる程, ノルエピネフィリンによる最高収縮力は増強傾向を示し, 骨盤部精管がもっとも強く反応した. 一方, ノルエピネフィリンに対する感受性は遠位精管程低くなり, 統計的にも有意であつた.
3) 精管膨大部遠位精管とほぼ同様の反応を示した.
4) 精嚢自発性収縮が高率に発生し, 収縮数ももつとも多かつた. しかし, ノルエピネフィリンによる最高収縮力は全精路中もつとも低く, ノルエピネフィリンに対する感受性も遠位精路と同様に低かつた.
5) 上記の精路部位別のノルエピネフィリンに対する反応より, 精路内精子輸送は次のように理解される.
精巣で作られた精子は精巣上体尾部より常に遠位精路に向かい能動的に送り出される. 性的興奮が始まると, まず精巣上体尾部の収縮が始まり徐々に強まり, 内圧も高くなり精子輸送も活発となる. 更に, 性的興奮が高まると, 近位精管へと収縮は波及し, かつ強力となる. 精管内圧の上昇と共に, 精管膨大部内圧も上昇し, 遠位側への精子輸送は益々活発となり, 射出直前には遠位精路は最強の収縮を生じ, 先ず精管膨大部内容を後部尿道へ急速に射出し, 同時に精管膨大部より近位の精路は痙縮の状態にあり逆流を阻止し, 体外へと射精が起こると考えられる. この三連の精路の収縮運動は精路内精子輸送にとつて極めて合目的であり, これにノルエピネフィリンが大ぎく関与していることが分つた.

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