1987 年 78 巻 12 号 p. 2051-2059
発見当初, 中枢神経に多く存在すると考えられたカルシウム結合蛋白質であるS100蛋白質は, その後の研究により骨格筋, 心筋, 腎などにも多量に存在し, また, 近位尿細管上皮細胞起源とされている腎細胞癌組織にも正常腎組織の約4倍の濃度で含有されていることが最近明らかにされた.
今回我々は, 尿中のS100蛋白質のαサブユニットを腎細胞癌61例, 他の悪性泌尿器科疾患32例, 良性泌尿器科疾患84例, 健常人448例について測定し, 腎細胞癌の腫瘍マーカーとしての有用性を検討した. 測定法は新しく確立したサンドイッチエンザイムイムノアッセイ法を用いた.
健常人での尿中S100-αの平均値は0.179±0.121 (ng/ml) で, その正常上限をmean+3SDとすれば0.542 (ng/ml) で, 腎細胞癌での陽性率は63.9% (39/61), 悪性泌尿器科疾患では15.6% (5/32), 良性泌尿器科疾患では7.1% (6/84) であり, 腎細胞癌での平均値は他の疾患及び健常人での平均値よりも統計的に有意に高かった (p<0.01). 又, 腎細胞癌に関して言えば, 陽性率及び測定値の平均値は stage 及び grade の上昇と共に上昇した.
以上の結果より, まだ今後の検討を要するものの, 尿中S100-αは腎細胞癌の腫瘍マーカーとして診断, 病期の予測上有用であると思われた.