日本泌尿器科学会雑誌
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アルコール性精巣障害の発現機序
白井 尚池本 庸
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1992 年 83 巻 3 号 p. 305-314

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抄録

アルコール性精巣障害の機序を観察するために前実験として45日齢, 体重約200gの雄性SD系ラットを用い, Lieber 処方にもとづいたエタノールを飼料総カロリーの36%含有する合成液体飼料で7週間飼育したが精巣萎縮は作製できなかった. そこでアルコール性肝障害患者の栄養学的背景にもとづいた高脂肪, 低蛋白食でエタノールを飼料総カロリーの46%含有する合成液体飼料を与えたところ精巣萎縮が作製できた.
実験的精巣萎縮に伴う組織学的, 生化学的変化は次の通りであった. 1) 精細管直径, 精細管内総細胞数は減少したが, 精細胞の変性は見られなかった. 2) 精細管壁で基底膜の屈曲, 蛇行, 陥入, 基底膜緻密層の多層化が見られ, 固有層では膠原繊維の増生が見られた. 3) Sertoli cell の細胞質に巨大な脂肪滴沈着, ミトコンドリアの重層化が見られ, ランタン・トレーサー法では Sertoli cell tight junction の透過性が亢進した. 4) 血清および精巣内テストステロン値は低下した. 5) 精巣内 lactate dehydrogenase-X (LDH-X) 活性が低下した. 6) 精巣間質に局在する Low Km alcohol dehydrogenase (ADH) 活性が上昇した.
以上から, アルコール性精巣障害の機序には三大栄養素の組成とアルコール濃度が重要な要素であり, 障害は精巣間質, 精細管の両者におこり, 精細管障害の主体は Sertoli cell と精細管壁であると考えられた. また, 精巣内ADHは精巣間質でアルコール代謝に関与していることが示唆された.

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