日本泌尿器科学会雑誌
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高齢者夜間頻尿における脳性ナトリウム利尿ペプチド (BNP) と相対的夜間多尿の関連
曽根 淳史近藤 典生小林 達也小出 隆生古川 洋二絹川 敬吾森岡 政明首藤 恵二郎永井 敦
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2007 年 98 巻 3 号 p. 558-564

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抄録

(目的) 高齢者の夜間頻尿の原因として過活動膀胱 (Overactive bladder: OAB), 睡眠障害 (再入眠障害) とともに問題となっているのが夜間多尿である. 高齢者の夜間多尿に高血圧をはじめとする循環器障害がどの程度影響しているかをみるため, 心不全の予後評価に有用とされている脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain natoriuretic peptide: BNP) を用いて1日尿量, 昼間尿量, 夜間 (睡眠中) 尿量, 夜間尿量率 (NPi) との関連性を検討した.
(対象と方法) 対象は2002年10月から2005年9月の間に1晩に1回以上の夜間頻尿を主訴に外来を受診した128例 (男92例, 女36例) である. 方法は外来受診時BNPの測定を行い, 同時に排尿チャート (Frequency volume chart: FVC) を4日間以上記載してもらった. FVCより1日尿量, 昼間尿量, 夜間 (睡眠中) 尿量, 夜間尿量率 (NPi) を算出し, 関連性について検討した. 除外対象を血清クレアチニン値1.2mg/dlを越える腎機能低下症例, 明らかな心疾患 (慢性心不全, 心筋梗塞, 未治療の狭心症, 心房細動などの不整脈など) を有する症例, 排尿日誌を正確に記入できない症例とした. なお, 排尿障害の治療として使用していたα1-blocker や坑コリン剤は継続投与のままとした.
(結果) 全症例のBNP値は46.3±39.6pg/mlと高値であった. 全症例の1日尿量は1,555±458ml, 昼間尿量は935±322ml, 夜間尿量は624±251mlで, NPiは40.1±10.5%と高値であった. BNPは1日尿量 (p=0.0215) と昼間尿量 (p=0.0004) との間に有意な負の相関があり, NPiとの間には有意な正の相関 (p=0.003) が認められた. BNPを潜在性心疾患の可能性があるといわれている50pg/ml未満と以上で分けてみると, NPiは50pg/ml未満群では38.14±10.07%であるのに対し, 50pg/ml以上群では43.97±10.48%と有意に高値を示した (p<0.0029).
(結論) 高齢者では潜在的に軽度の心不全を持っている症例が多く, 昼間に尿量減少を示す傾向があり, 昼間に生じた軽度のうっ血状態を改善するために相対的に夜間尿量が増加し, 心負荷を軽減している可能性が示唆された. 夜間多尿による夜間頻尿症例のなかには少なからず潜在性心不全による多尿患者が含まれている可能性があり, バゾプレッシン製剤を眠前に使用するか, 利尿剤を昼間に使用して相対的に夜間尿量を減少させるのかの指針にBNPが有効であると思われた.

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