2018 年 39 巻 4 号 p. 94-97
近年手術顕微鏡に光干渉断層計(OCT)が内蔵された,OCT付手術顕微鏡(術中OCT)が市販され,手術時のOCT所見が得られるようになった。
本稿では硝子体手術時に術中OCTを施行した症例を呈示した。術前にOCTで網膜を評価できなかった増殖糖尿病網膜症の症例において,硝子体出血除去後にOCTを撮影し,糖尿病黄斑浮腫を同定できた。また強度近視眼における内境界膜(ILM)剥離で中心窩のILMを温存するFovea sparing ILM peelingの安全性を検証すると共に,少数ではあるが同手技を用いても黄斑円孔を生じる症例があり注意を要することがわかった。次にOCT画像の新しい評価を可能とする,ellipsoid zone(EZ)をマッピングすることでEZの状態をより視覚的に簡便に評価できるソフトウェアについて解説した。同ソフトウェアにより,クロロキン網膜症においてEZが障害されている状況を視覚的にとらえることができた。
光干渉断層計(Optical Coherence Tomography; OCT)は,1990年代ごろから網膜など後眼部の観察に用いられるようになった1)。撮影により得られる有用な情報が多く,かつ撮影が簡便で短時間であること,さらに非接触的で非侵襲的な検査であることから需要が高く,現在では臨床の場で広く使用されるようになっている。もはや従来機種となっているSpectral-domain OCT(SD-OCT)に加え,測定光の波長が長く,組織への深達性に優れたswept-source OCT(SS-OCT)も開発され,脈絡膜病変などより眼球の深い部分にある組織についても詳細に検討できるようになった。
また,OCTの撮影方法・撮影対象も多岐にわたるようになった。例えば図1は左眼の黄斑円孔の症例であるが,術後にガスが充填された状況においてもOCTの撮影ができるようになった(図2)。すなわち術後の円孔閉鎖をより早く確認できることで患者の伏臥位期間を短縮できるようになり,その恩恵は非常に大きいと思われる2)。

黄斑円孔の症例。Gass stage分類でstage 3相当。硝子体の線維(矢印)まで明瞭に観察できる。

図1の症例術翌日のOCT画像。円孔閉鎖が確認できる(矢印)
そしてOCTの術中利用のため,一般的には検査室に設置されていたOCTが手術室に持ち込まれるようになった。初期の物としては,手持ち型のSD-OCTの撮影部分を手術顕微鏡に装着し,顕微鏡と同軸ではないもののそれでも術中に明瞭に網膜の状態を観察できた3)。現在国内で市販されているRescan 700®(Carl Zeiss)のような,手術顕微鏡と同軸でリアルタイムにて術野を観察しながらOCT撮影部位を決定できるものではないものの,得られる像のクオリティは高く,ellipsoid zoneも明瞭に観察することができ,臨床研究にも広く活用されている4)。
本稿では,手術顕微鏡と同軸でOCTが撮影可能な光干渉断層計付手術顕微鏡であるRescan 700®(以下,術中OCT)の有用性と,同装置を用いて施行した硝子体手術時に得られた所見について述べる。
最も一般的な術中OCTの使用方法と思われる。
症例は両眼の増殖糖尿病網膜症の症例で,左眼は硝子体出血を来たしている。超広角走査レーザー検眼鏡Optos 200Tx®で撮影した眼底写真(図3)では,左眼の中心近くの硝子体ゲルに出血が絡んでいるのがわかり,そのため眼底は後極から下方にかけてその詳細は不明である。術前にSD-OCT撮影を試みたものの,有用な情報は得られなかった。そして,硝子体手術にて出血を除去した後にOCTを撮影し(図4),糖尿病黄斑浮腫を認めかつ網膜の菲薄化などは認めなかったため,内境界膜(ILM)を除去して手術終了時にステロイド懸濁液を少量眼内に残して手術終了した。

両眼増殖糖尿病網膜症。両眼とも汎網膜光凝固施行されている。左眼は硝子体出血のため透見性が悪く,特に後極から下方にかけては詳細が不明である。

術中OCT画像。手術顕微鏡と同軸なのでOCT撮影部位を指定(左側)することができる。硝子体出血を除去すると糖尿病黄斑浮腫(矢印)をOCTで同定できるようになった。明らかな網膜の菲薄化などは認められない。
近視性黄斑牽引症や近視性黄斑円孔の症例において,病態にILMによる網膜の牽引が関与する可能性が言われており,手術時にILM剥離を行う事の有効性が報告されるようになった5)。しかしその機械的な合併症として黄斑円孔が形成される可能性もあり,対応策としてfovea sparing ILM peeling(FSIP)が考案され,安全性と有効性が報告された6)。実際FSIPを行った症例において,術中の網膜の変化はどのようになっているのか術中OCTを用いて検討した。
最初の症例は網膜分離に加えて中心窩網膜剥離を生じていた症例で,中心窩網膜厚がやや薄くなっていた症例である。硝子体切除を行い,網膜表面の残存硝子体も可及的に除去した後,ブリリアントブルーG染色を行いFSIP施行した。FSIP施行前後で黄斑円孔など形成されておらず,ILMは中心窩からやや離れたところまで剥離されカールしている(図5)。特に問題なくFSIPが施行できている症例といえる。

近視性網膜分離と中心窩網膜剥離の症例にFSIPを行った症例の術中OCT写真。FSIP施行後も黄斑円孔など生じておらず特に問題なく同手技を施行できている。
次の症例は,最初の症例と同様にFSIPを行ったが黄斑円孔が生じた可能性を示唆する所見が得られたものである(図6)。術前の中心窩網膜厚は最初の症例よりかなり薄い事が確認できる。FSIPはILMがカールしている部位まで施行したと考えられるが,それより中心に近い部分の網膜が断裂している。手術時の機械的なストレスにより黄斑円孔を生じたと考えられる。

FSIP施行時に黄斑円孔が形成された症例の術中OCT写真。FSIP施行前の網膜はかなり薄いことがわかる(矢印)。また,FSIP施行後に黄斑円孔を生じていることがわかる。
著者らの症例でFSIPを行った際に黄斑円孔を生じた症例は4例中この1例のみであり,FSIPは既報通り比較的安全な手法と思われるが,それでも黄斑円孔を生じる症例も存在しうるので,術中にOCTで確認できる恩恵はとても大きいと思わせた症例であった。
次の症例は,裂孔原性網膜剥離の症例で,術前すでに中心部分の網膜も含めて剥離していた症例である。硝子体基底部を処理する際に網膜の動揺が大きかったのでパーフルオロカーボン(PFCL)を使用した(図7)。図のようにPFCL下でも良好なOCT画像を取得することができた。また,PFCL使用下でも中心窩下の網膜下液(SRF)は残存していることも確認できる(図7右側黄色部分)。PFCL下で黄斑円孔を生じる事もあるがこの症例では認められず,ILM剥離は施行せずに手術終了した。

裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術中の術中OCT写真。眼内はPFCLと液体が混在する状態である。PFCL存在下でも中心窩下のSRFは残存していることがわかる(黄色で示したSRFの部分は手書きで追加した)。
OCT撮影において得られるBスキャン画像を網膜の層別にマーキングし(図8A),立体的に再構築することで各層を視覚的に簡便に評価できるソフトウェアが開発されてきている7)。ここでは特に視力との相関が言われているellipsoid zoneから網膜色素上皮までの幅を色付けした(図8B)。また図8Cはこの黄緑の面のen face画像である。図9で呈示した症例ではクロロキン網膜症で視細胞が障害され,ところどころellipsoid zoneから網膜色素上皮までの距離がなくなった部分が明瞭に解析できる(図9B, C矢印)。また色調はサーモグラフィのように青(ellipsoid zoneから網膜色素上皮までの距離が短い)から赤(ellipsoid zoneから網膜色素上皮までの距離が長い)まで示される。

健常者のOCT画像。A:OCTのBスキャン画像において,主要な層を認識して色分けしている。B:Aの画像を立体的に再構築し,ellipsoid zoneから網膜色素上皮までの幅を一枚の板のように表現している。C:Bの黄緑で示した面のen face画像。

クロロキン網膜症のOCT画像。A:OCTのBスキャン画像において,主要な層を認識して色分けしている。B:Aの画像を立体的に再構築し,ellipsoid zoneから網膜色素上皮までの幅を一枚の板のように表現している。ellipsoid zoneから網膜色素上皮までの距離が短くなっている部分はところどころ青色で表示されている。C:Bの黄緑で示した面のen face画像。
これらは一般的な検査室に設置されたOCTで撮影した画像であるが,術中OCTにおいても,Bスキャンを一定幅で一定枚数以上撮影することさえできれば同様の検討は可能である。例えば黄斑円孔の術中にILMを剥離・除去することが一般的になっているが,ILM剥離後に網膜下に間隙が生じる事が報告されている4)。図10はOCT画像でILM剥離後の網膜下の間隙subretinal hyporefrectivity(SRHR)が明瞭に観察され,en face画像ではILM剥離前の図10Cと比較して赤みを帯びていることから画像的にも感知されている事が確認できる。

黄斑円孔に対する硝子体手術時の術中OCT画像。ILM剥離すると網膜下にSRHRと呼ばれる間隙が形成される(D)。CからFへの色調の変化でellipsoid zoneから網膜色素上皮までの距離が延長したことが示されている。
術中OCTが有用であった症例や,今後のOCTに付随するソフトウェアの発展の可能性について解説した。術中に手術手技の適性を検討し,所見から追加手技の必要性を考える事ができ,ひいては術中所見と予後との関係を推察できる可能性があり,同デバイスの有用性は高いと思われた。