視覚の科学
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小児の屈折検査と屈折度
前田 史篤多々良 俊哉
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2020 年 41 巻 1 号 p. 9-11

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1. 3歳児健康診査における視力検査と屈折検査

日本では母子保健法 第12条により1歳6か月と3歳の児に健康診査(以下,健診)が実施されている1)。1990年からは健診に視覚検査が導入2)され弱視の検出に一定の成果をあげている3)

神田ら4)は3歳から4歳の1,531名の児を対象として,視能訓練士がランドルト環視標を用いた遠見視力検査を練習なしで実施したところ,検査の可能率は3歳0か月で73.3%,3歳6か月で95.0%であったと述べている。同じ3歳児であっても月齢の違いによって視力検査の可能率は異なるが,橋本5)によると健診を受診する月齢は様々であり,3歳6か月の次に3歳0か月が多く,3歳6か月未満が65%を占めたと報告している。家庭における一次健診では視力検査の可能率がさらに低下する6)ことからも,健診の対象児には自覚的検査である視力検査を行うことが困難な児が少なからず存在するといえる。視覚検査に精通している眼科医や視能訓練士が健診に参加することが望ましい7,8)ものの,実際には実現できていない地域が多い。様々な課題が指摘9)されているが,現行の健診の精度を高めるためには屈折検査の導入が効果的10)とされ,林ら11)によるシステマティックレビューにおいてもその有用性が示されている。

屈折検査は視力検査と違って他覚的な検査が可能である。米国小児科学会12)は視力検査が十分にできるまでは,機器を用いた他覚的スクリーニングを推奨している。近年,スクリーニングに特化した屈折検査の自動機器としてSpotTM Vision Screener(以下,SVS)(図1)が開発された。SVSはフォトレフラクション法13)をベースとした屈折検査機器である。フォトレフラクション法を用いた機器は自然視に近い両眼開放下の状態で,短時間の固視で両眼同時測定が可能である。さらにSVSでは屈折度に加え,眼位,瞳孔径の同時計測が可能である。操作が簡便であり,眼科や小児科そして健診の現場で急速に拡がりつつある14)。SVSによるAmblyopia Risk Factorの検出に関して,感度は87%~92.6%,特異度は74%~90.6%と良好な値を示している1517)

図1

Spot Vision Screener

2. SVSによる3歳1か月児の屈折検査

静岡県藤枝市では3歳1か月児の健診にSVSを導入し,Tataraら18)はそのデータを詳しくまとめている。対象は2016年4月から2017年3月までに藤枝市で健診を受けた3歳1か月児1,219名であった。SVSが検査可能であった児は1,219名中1,217名(99.8%)であり,高い検査の可能率を示した。これはSVSの機器と被験者の距離が1 mあり機器の接近がなく児に恐怖心を与えず測定可能であるためだと考えられる。また,SVSの測定は保護者同伴で実施ができること,また必要に応じて児が緊張しない遊戯スペースのような場所で測定ができることも関係したと思われる。

測定ができなかった2名について,1名は瞳孔径が測定限界の4 mmよりも縮瞳していたこと,もう1名は1秒間の固視ができなかったことが原因であった。その他,SVSが測定できない要因として,重篤な眼器質疾患が存在する可能性を考慮しなければならない19)。したがって複数回の測定を行った上,それでも測定不能であった場合はその理由を慎重に検討する必要がある。

SVSが測定可能であった1,217名の内,眼位異常と判定された10名を除いた1,207名の右眼の球面度数(以下,同じく平均値±標準偏差)は+0.70 ± 0.55 D(中央値+0.75 D),円柱度数は−0.67 ± 0.49 D(中央値−0.50 D),左眼の球面度数は+0.64 ± 0.61 D(中央値+0.50 D),円柱度数は−0.62 ± 0.50 D(中央値−0.50 D)であった。左右眼の球面度数を比較して求めた不同視差は,0.29 ± 0.37 D(中央値0.25 D)であり,最大値は4.50 Dであった。

3. SVSによる要精密検査の判定基準

SVSの測定ができた1,217名のうち61名(5.0%)が屈折異常疑い,6名(0.5%)が眼位異常疑い,4名(0.3%)が屈折異常疑い+眼位異常疑いと判定され,合計で71名(5.8%)が要精密検査となった。屈折異常の内訳として2.00 D以上の遠視は32名52眼,2.00 D以上の乱視は44名56眼,1.50 D以上の近視は3名4眼であり,2.00 D以上の不同視は12名であった。これらは静岡市20)を参考にして藤枝市が定めた要精密検査の基準に基づき判定されている。なおその後の追跡調査にて,要精密検査が必要と判定された71名の中で医療機関の受診が確認できた児は69名であった。その69名のうち継続的な通院が必要と診断された児は64名(92.8%)であった。

現在,日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会では日本におけるSVSの判定基準について検討中であり,ホームページに掲載されている小児科医向けのSVS運用マニュアル Ver.1には現在の推奨値が掲載されている21)。SVSには米国小児眼科学会が定めた基準16)が内蔵されている。文献18にあるデータを分析し,それぞれの基準において要精密検査に該当する児の数を抽出して表1に記した(表1)。遠視について,藤枝市の基準では球面度数2.00 D以上に該当する32名52眼が要精密検査として判定される一方,日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会の推奨基準である等価球面度数2.50 D以上では16名20眼となる。基準を策定するにあたり,屈折異常の程度が重要であることはもちろんであるが,乱視が強く出やすい22)とされるSVSでは等価球面度数を取るのか,それとも球面度数にするのかでも変わってくる。

表1 3つの基準による要精密検査の判定
判定基準 対象範囲(月齢) 要精密検査 遠視 近視 乱視 不同視
藤枝市 37 65名 32名52眼 3名4眼 44名56眼 12名
 *静岡市20)と同じ S 2.00 D以上 S 1.50 D以上 C 2.00 D 以上 2.00 D以上
JASA,JAPO推奨値21) 36–72 60名 16名20眼 4名5眼 44名56眼 15名
 *現在検討中 SE 2.50 D以上 SE 2.00 D以上 C 2.00 D以上 1.50 D以上
AAPOS推奨値16) 36-72 95名 16名20眼 8名14眼 77名97眼 24名
 *SVSに内蔵 SE 2.50 D以上 SE 1.25 D以上 C 1.75 D以上 1.00 D以上

JASA: Japanese Association for Strabismus and Amblyopia 日本弱視斜視学会,JAPO: Japanese Association of Pediatric Ophthalmology 日本小児眼科学会

AAPOS: American Academy of Pediatric Ophthalmology and Strabismus

S: spherical power 球面度数,C: cylindrical power 円柱度数,SE: spherical equivalent power 等価球面度数

文献18にあるデータより,SVSで測定可能であった1,217名から,眼位異常疑いのみで要精密検査と判定された6名を除いた1,211名を分析している。

アメリカのロサンゼルス郡では93,097名の小児に対する視力と屈折検査の結果を詳細に分析し,健診における具体的な判定基準を示している23)。Satouら24)は角膜屈折力と眼軸長を計測し,Amblyopia Risk Factor の検出に有用であったことを報告している。健診はこれまでのおよそ30年間の知見に新たな手法を加えることで,さらなるその精度向上が期待される。

本研究はJSPS科研費19K14184の助成を受けたものです。

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