視覚の科学
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学会印象記
第3回日本近視学会総会印象記
五十嵐 多恵
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2021 年 42 巻 3 号 p. 68

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第3回日本近視学会総会が平形明人教授のもと,杏林大学眼科学教室主幹で2021年5月22日,23日に開催された。日本近視学会は,近視に関わる分野の基礎的・臨床的研究の発展を後押し,日本が病的近視を含む近視研究で世界をリードしていくことを念頭に,日本眼科学会の近視分野の関連学会として,日本を牽引する眼科医らを中心に2016年7月に設立された学会である。第3回総会はCOVID-19禍の影響により8ヶ月延期され,現地参加と遠隔(オンライン)利用によるハイブリッド開催となった。

2021年現在,世界的に近視は増加と悪化の一途にあり,病的近視は世界の失明の主要な原因疾患となっている。病的近視に伴う様々な眼合併症による視覚障害の予防や治療方法の開発には,眼科各分野のエキスパートの叡智の集結が必須であり,日本が世界をリードする分野でもある。一方で近年は疫学調査の結果から,近視はたとえ軽度であっても,高齢期における様々な眼疾患の発症を上昇させることが明らかとなり,諸外国はPre-onset myopiaの段階で近視発症の高リスク児をスクリーニングし,認可承認が得られた近視進行予防治療を提供する体制を整えはじめている。国内でも良好な視機能を維持するために,小児期に近視の進行を予防することの重要性が認識され,近視に対する関心は年々高まっている。

このような背景を反映し,第3回総会では一般演題数の応募は過去最高であった。また優れた研究を選出するMYO-PIA賞も新たな試みとして企画開設された(写真)。第1回MYO-PIA賞は,医師部門が高橋洋如先生(医科歯科大)の『超広角OCTによる硝子体イメージングと近視性牽引黄斑症の病態解明』と,四倉絵里沙先生(慶應大・光生物学)の『東京都内小中学生における最新の近視有病率と近視関連環境因子』であり,視能訓練士部門は,徳武朋樹(川崎医大・総合医療センター)の『中・強度近視学童における低濃度アトロピン点眼の近視進行抑制-無作為化比較対照試験』であった。

第1回MYO-PIA賞受賞者

招待講演は,強度近視眼における炎症やmicroRNAsなどの研究の第一人者である台湾のSuh-Hang Hank Juo教授(China Medical University)のmicro RNAsを利用した小児の近視に対する点眼薬の開発に関する講演であり,低濃度アトロピン点眼のLAMP studyを主導する香港のJason C Yam先生(The Chinese University of Hong Kong)からは,LAMP studyの最新の知見をご報告頂いた。シンポジウムでは「近視の疫学と進行予防」,「眼疾患における近視の影響」,教育セミナーでは「近視外来のUpdate」が企画され,共催セミナーは近視性緑内障様視神経症,近視性黄斑部新生血管,近視性牽引黄斑症などの病的近視の眼合併症に関する講演を中心に構成された。

第2回までの開催内容と比較し小児期の近視進行予防に関する関心の高まりが伺えた。現在,日本では近視進行予行に対する様々な情報が錯綜する中で,眼科医療従事者は,患者や学校現場においてエビデンスに基づく適切な近視予防のための情報提供を行う必要に迫られている。第3回総会は,このようなニーズと近視学に関する最新の知見をアップデートするという課題に,大きく応えるものであった。盛況のうちに幕を閉じた第3回総会の余韻が残る中で,1年後の2022年5月14日,15日に京都大学の辻川明孝教授のもとで開催される第4回総会が今から待ち遠しい限りである。

 
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