2025 年 61 巻 p. 1-21
本研究は,地方圏に住む若年層が進学や就職を契機とする居住地選択において,主観的な価値観や周囲の人間関係がどのように影響するのかを,実証的に明らかにすることを目的とする。個人の居住地選択についての既存の研究からは,地域間の所得格差は移動を理解する上で欠かすことができない重要な要因とされている。しかしながら,経済的な要因が移動に与える影響は性別により異なることが指摘されている。また,大都市から地方圏へのUターンのように,経済的インセンティブのみでは人口移動を十分に説明できない事例もみられる。そこで本研究では既存の研究において考察されることが少なかった若年層が自らの理想的な生き方を実現できるかという主観的な判断が居住地選択に与える影響に着目する。具体的には,(1)ジェンダー・ギャップをはじめとする県民性や社会の雰囲気,(2)親や友人・パートナーとの関係,(3)ロールモデルの存在およびその居住地,という3点に焦点を当て,高校卒業時の進学および就職を機として地元から転出するか否かについての実証的な分析を行う。分析では,2023年に徳島県が行った全国規模のアンケート調査から得られた1万2,281人のデータを利用する。分析により次の3点が明らかになった。1点目として,「結婚するのは当然」,「女性は家庭・子育て優先」といった固定的な生き方を強いるような雰囲気を感じた女性は,進学を機に県外へと脱出することが示唆される。2点目として,転出・残留の選択においては,親の希望に加え,友人・パートナーが地元に残留することも有意な影響を持っている。3点目として,地元にロールモデルが存在することは,多くのケースにおいて若年層が地元に残留する確率を高める傾向がある。これらの発見は人口減少に直面する多くの地方自治体にとって,若年層の地元残留率を高める施策についての示唆となり得る。