予防理学療法学とは,「国民がいつまでも『参加』し続けられるために,障がいを引き起こす恐れのある疾病や老年症候群の発症予防・再発予防を含む身体活動について研究する学問」と定義されます。この学問の重要性を考える上で,一円観という思想が示す視点は極めて有意義といえます。一円観とは,物事を分断せず,全体を相互に関連し合うものとして捉える思想です。これは,個々の現象や行動が独立して存在するのではなく,全体の調和の中で意味を持つとする考え方に基づいています。この視点は,健康や予防におけるアプローチを再構築し,従来の科学の枠組みを超えた新しい契機になると考えています。従来の一次予防,二次予防,三次予防という段階的な区分けが重要である一方で,一円観の視点ではこれらが連続的かつ相互依存的なプロセスとして統合的に機能することが理想とされます。たとえば,高齢者の転倒予防を考えた場合,筋力トレーニング(一次予防)はリスク評価(二次予防)と連携し,その後の社会参加やリハビリテーション(三次予防)へと自然につながることになります。一円観的アプローチでは,これらが単独の取り組みとして分断されるのではなく,全体の流れの中で調和が期待できます。また,一円観の思想を基にした予防活動は,単なる身体的健康の向上にとどまらず,精神的および社会的幸福の向上をも視野に入れるものです。このようなアプローチは,高齢者を含むすべての人々が社会に「参加」し続けられる環境づくりを支える土台となることが期待できます。
テクノロジーの活用は,一円観に基づく予防の新たな可能性を引き出します。ウェアラブルデバイスや人工知能(AI)を活用した健康管理システムは,個々の健康データを収集し,地域社会全体の健康動向をリアルタイムで把握することを可能にします。このような技術は,一次予防,二次予防,三次予防を統合的に運用する基盤を提供し,全体として調和の取れた予防モデルを実現する道を提案できると言えます。さらに,予防の取り組みが個々の専門領域にとどまらず,地域社会,政策立案者,医療従事者,そしてテクノロジー企業など,多様な主体との連携を促進するための共通基盤となります。このような連携により,予防理学療法学の枠組みが拡張されるとともに,より包括的で持続可能な健康維持のモデルが形成されるのではないでしょうか。
本誌が,こうした議論と実践の場を提供し,予防理学療法学の発展に寄与することを願い,ここに巻頭言といたします。
2025年1月