家畜繁殖研究會誌
Print ISSN : 0453-0551
栄養・代謝と繁殖に関するシンポジウムヘ
吉田 信行
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1960 年 6 巻 2 号 p. 51-53

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抄録

昭和32年に家畜栄養研究協議会が農林省農林水産技術会議によつて組織され,組織的,総合的な仕組で家畜栄養に関する研究が進められることとなつた。
この研究協議会によつて進められている研究は,もちろん,家畜栄養に関する研究のすべてではないが日本の畜産を背景として考えた場合農家の当面する問題として最も必要と考えられる諸課題を集約して行おうとする意図を持つもので現在は乳牛に問題をしぼり,その飼養標準設定及び栄養障害に関する研究並びにこれに関連する基礎研究に主力をそそいでいる。なおこの研究協議会は農林省農林水産技術会議により59人(昭和34年度末現在)の委員を委嘱することによつて構成されている。
この研究協議会の構想ならびにその主なる研究テーマは以上の通りであるが,栄養と繁殖障害の関連についてはこの協議会においても重要なテーマとして常に検討がなされて来た。しかし乍ら34年度末の協議会では,家畜繁殖の問題が極めて重要であるために,今後は,なんらかの形の家畜栄養の研究とならんで組織等を考えることにより研究推進の途がないものであろうか,もしそのような途があるならば栄養研究とならんで繁殖研究を推進し,できるだけ早い機会にこれら両者の関連を明らかにすべきであるという結論が下された。
協議会による家畜栄養研究は家畜飼養の合理的な方法を確立することを目的とするが,家畜栄養障害を考える場合には,その臨床症候群の重要な一つとして,繁殖障害があり,ある意味では繁殖障害を考えずして家畜の栄養を論ずること自体がナンセソスであるともいわれている。このように栄養研究の立場から繁殖障害の問題は切つても切れない関係にあり,両者の関連の考え方も家畜栄養と家畜繁殖の両面から夫々考えてみなければならない。
このような両面からの見方を最近の研究状況や研究者の意見に私見を加え整理してみると,つぎの6点になろうかと考える。
1.家畜の栄養は,その結果として家畜繁殖に重要な影響を及ぼし,栄養障害症候群の一つとしての家畜繁殖障害が当然考えられる。
2.家畜繁殖障害は家畜栄養障害症候群の一つとしての見方は成立するが,家畜繁殖障害そのものは性器及び性器外諸因子の異常によつて生ずるもので,家畜の栄養状態は性器外諸因子の一つであり,環境,ストレス,体質等の諸因子がこれとならんで考えられなければならない。また,これらの因果関係を完全に分離して考えることは難かしい。従つて,家畜繁殖の側からは栄養は重要ではあるが一因子である。
3.家畜栄養と家畜繁殖障害の関連を解明する手段の一つとして野外の栄養障害の実態を調査研究することがある。これを行う場合には,なんらかの傾向は察知でき又問題の提供は期待できるが,その限界点も明らかに存在する。即ち実際問題としては,例数を多くする時には不正確となり,正確を期する時には例数不足となる。しかし乍ら,これらの調査を行うことは大切でありその意義は深いことは勿論である。
4.家畜栄養と繁殖障害の関連を明らかにするためにとるべき方法としては,つぎの諸点を考えるべきである。
a.家畜栄養研究(例えば飼料の過不足,醸酵吸収不全)の一環として,繁殖障害の要因を採るときには相当長期間の観察が必要であり,とくに育成期間の影響を成牛に至るまで観察するということが必要である。
b.分娩前後の栄養状態が,その後の繁殖に及ぼす影響は,大切な問題であり,この場合には実際に家畜を経済的に飼育管理するという目的に立場を置いて,栄養,繁殖,泌乳の三者の関係を特に究明しなくてはならない。
c 繁殖障害の重要因子としての家畜栄養の状態を明らかにするには,繁殖障害多発地帯または群を明らかにして,この地帯または群における栄養状態(飼料給与,飼料組成,成分)を精査することが望ましい。しかも,この場合,栄養状態を明らかにするためには,他の地帯又は群との間に,飼料給与量,組成,成分等を明確に比較することが可能であり,しかも,その他の因子には差がないことが必要である。
5.家畜栄養研究において繁殖障害との関連を求める前に,飼養標準,ルーメン醗酵,栄養素の吸収,栄養障害判定基準等の研究が大切であるように,家畜繁殖の立場からは繁殖生理,繁殖障害判定基準等の研究の進展が望まれ,これらの研究を進めない限りは栄養との関連を求める研究にも限界点がある。
6.家畜栄養と繁殖障害との関連は,実用技術の段階では因果関係として明らかにされればいいのであつて,そのProcess研究は二義的ではないかという見解もある。たしかに,栄養面からの研究では,繁殖に現われる結果をある程度の関連として眺めることが出来,その因果関係を正常に戻すことによつて,相当数の繁殖障害を防除できる可能性もあるが,もし栄養に関連すると考えられる繁殖障害をその範囲の中ででも最大限に防除するとしても矢張り他の諸因子を含めて

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