家畜繁殖研究會誌
Print ISSN : 0453-0551
牛精子の耐凍性の機構に関する研究
I. グリセリン無添加の卵黄クエン酸ソーダ液および脱脂乳中の牛精子の耐凍性
永瀬 弘
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1962 年 7 巻 4 号 p. 145-150

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抄録

凍結-融解の過程における精子生存の機構を吟味する一環として,グリセリン無添加の卵ク液および脱脂乳中の牛精子の耐凍性を検索し次の知見を得た。
1) 現行の冷却速度(凍結まで1°C/min.以後5°C/min.)では,凍結温度の低下につれて,精子の生存率は急激な低下を示し,卵ク液では-25°Cで死滅する。牛乳の場合,卵ク液に比し生存率が良好で-30°Cでも死滅しない。
2) 上記の速度で凍結した精液を,液体窒素に浸漬する方法で急速な冷却を行なつた場合, -196°Cの超低温下でも生存精子が認められる。
3) この方法による液体窒素中の精子の生存曲線は,いわゆるプラトーの終末点からの急冷で,急に上昇し始め, -15°C(卵ク液) -15~25°C(脱脂乳)でピークに達し,以後急激に低下し,卵ク液では-25°Cからの急冷で死滅する。脱脂乳の場合, -30°Cからの急冷でも低率乍ら生存する。
4) 上記液体窒素中の精子の生存能力は,予備凍結の過程で起こる細胞の脱水の結果として,始めて獲得するものと解釈される。
5) この実験で凍結下における精子の死滅は,既に言われているように,細胞外凍結の過程で起きる塩の濃縮脱水および細胞内凍結の結果によるものと想像され,また2次凍結のさいの死滅は,その冷却速度から見て,細胞内凍結に原因するものと推察される。
本研究は農林水産技術会議による国内留学の規程により,北海道大学低温科学研究所で実施した。研究の企画,指導ならびに原稿作成に御高示を頂いた北大,低温研,根井外喜男教授,留学の機会を与えられた農技研丹羽太左衛門博士,留学中格別の御配慮を頂いた技術会議,道家調査課長,大貫技官,精液の分譲その他積極的な御協力を頂いた北海道道立家畜人工授精所亀松二前所長始め所員の方々の御厚意ならびに低温研第4部門の室員の方々の御協力に深謝する。

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