1963 年 8 巻 4 号 p. 113-117
山羊精液中の卵黄凝固要因の本体を明らかにする目的をもつて,凝固時に遊離される脂肪酸の種類や,凝固要因の卵黄に対する作用位置について検討を加え,大要つぎのような結果が得られた。
1. 卵黄分劃に対する凝固要因の作用を検討することによって卵黄の燐脂質からエステル結合がきれて脂肪酸の遊離されることが知られた。
2. 凝固した卵黄緩衝液について遊離脂肪酸と燐脂質に関するペーパークロマトグラフィーを応用し,その結果遊離される脂肪酸の主なるものはオレイン酸,リノール酸,パルミチン酸などであること,また燐脂質から脂肪酸が遊離されリゾレシチンが生成されることが知られた。
以上の実験結果から,凝固要因は蛇毒性のものと類似のフォスフォリパーゼAに属する酵素と推定された。ただし蛇毒は燐脂質に作用して不飽和酸のみを遊離するのに対して本酵素は飽和酸,不飽和酸の両者を遊離する点で注目すべきものと思われる。