抄録
【目的】低栄養時にはケトン体の脳での取り込みが増加し、脳内のケトン体濃度上昇が生殖機能を抑制する因子として作用することが示唆されている。しかし、ケトン体の脳での取り込み調節機序については未だ明らかでない。ケトン体の細胞内外への輸送はモノカルボン酸トランスポーター(MCT)を介して行われ、脳ではMCT1が血管内皮細胞、第4脳室上衣細胞、アストロサイトで、また、MCT2が神経細胞で主に発現していることから、脳でのケトン体取り込み調節にMCT1およびMCT2が関与する可能性が考えられる。そこで、本研究では、絶食が脳におけるMCT1およびMCT2遺伝子発現に及ぼす影響について検討した。【方法】卵巣摘出後エストラジオールを代償投与した成熟雌ラット(9-10週齢)を用いた。48時間の絶食を負荷し、血中LH濃度および代謝基質濃度を測定するとともに、視床下部、橋、延髄からtotal RNAを抽出し、リアルタイムRT-PCR法によりMCT1およびMCT2遺伝子発現量を定量した。【結果および考察】絶食により延髄におけるMCT2遺伝子発現量が増加した。視床下部および橋におけるMCT2遺伝子発現量および脳の各部位におけるMCT1遺伝子発現量は絶食による変化はなかった。また、絶食によりLHパルス頻度が減少し、生殖機能の抑制が示された。血中グルコース濃度は低下した一方、血中非エステル化脂肪酸およびケトン体濃度は上昇した。以上の結果から、ラットにおいて、生殖機能の抑制が生じる絶食状態では、延髄におけるMCT2発現の増加が、ケトン体の脳での取り込み増加に関与する可能性が示唆された。