【目的】体細胞クローン動物に頻発する異常はゲノムリプログラミングが適切に行われないことに起因すると考えられている。現在までに、マウスクローン胚盤胞における未分化マーカー遺伝子等をはじめとした一部の遺伝子の発現異常が報告されているが、ドナー細胞種とクローン胚の遺伝子発現との関連については、十分に明らかにされていない。そこで、本研究ではセルトリ細胞、卵丘細胞及びES細胞を用いて作出したクローン胚における網羅的遺伝子発現解析を基に、ネットワーク及びパスウェイ解析を行い各クローン胚における特性を比較し、ドナー細胞特異的なリプログラミングを明らかにしようとした。 【方法】マイクロアレイ解析にはB6CBF1由来の野生型 (WT)、セルトリクロー (SRc)、ESクローン (ESc)、B6D2F1由来の卵丘クローン (CUc) 胚盤胞をサンプルとして用いた。サンプルからtotal RNAを回収後、ビオチンラベル化されたcRNAを合成し、GeneChip Mouse genome 430 2.0 array (Affymetrix) にハイブリダイゼーションさせた。得られたデータはGeneSpring v7.3 (Agilent)で解析し、各クローン胚特異的に発現異常を示した遺伝子群をIngenuity Pathway Analysis (Ingenuity) のCanonical Pathway解析に供した。 【結果及び考察】各クローン胚で特異的に差次的発現を示した遺伝子群において、既知のパスウェイとの関連を調べるとSRcではG2/M DNA損傷チェックポイント制御、CUcではPtenシグナル、EScではアポトーシスシグナルなどとの関連性が明らかとなった。これらの結果から、各クローン胚における遺伝子発現は用いたドナー細胞種に依存して特有であるということが分かった。さらに、CUc で異常を示したPtenシグナル、SRcで異常を示したVegfシグナルの崩壊は発生停止につながることが知られており、それぞれにおける異常の一因であることが示唆された。パスウェイ解析は遺伝子間の相互作用を把握できるため、リプログラミング機構の分子メカニズム解明に有効であると考えられる。