抄録
【目的】MOETにおける供胚牛と受胚牛は,直腸を介して子宮操作が行われるため,その刺激により子宮内膜からPGF2αの産生が誘発される。ウシ胚の体外培養系において,PGF2αは胚の品質を低下させることが報告された。刺激によって誘発されるPGF2αは,COX2を介して子宮内膜で合成される。これらのことから,COX2阻害剤であるメロキシカムを供胚牛や受胚牛の子宮操作前に投与することによって,子宮内膜からのPGF2αの産生を抑制し,ET後の受胎率向上に寄与するかもしれない。そこで本研究では,メロキシカム投与がMOETにおける受胎率に影響をおよぼすか調査した。【方法】供胚牛として黒毛和種経産牛100頭,受胚牛としてホルスタイン種およびF1種未経産牛172頭を供試し,採卵あるいはETの10~60分前にメロキシカム(メタカム2%注射液,6 ml:メロキシカムとして120 mg/頭)を皮下注射した(供胚牛43頭,受胚牛87頭)。対照区は無投与とした(供胚牛57頭,受胚牛85頭)。無作為に選抜した牛からの(各区10頭)採血をメロキシカム投与前と採卵・ET直後に行い,血中PGFM濃度をEIAにて測定した。また,供胚牛から回収した胚を受胚牛に移植し受胎率を調査した。【結果および考察】無投与区の供胚牛と受胚牛は,子宮操作によりPGFM濃度が有意に上昇したが,メロキシカムを子宮操作前に投与することで,その上昇は抑制された。メロキシカム投与区の受胎率は81~84%と高い値を示したが,無投与区の受胎率(81%)と比較して差は認められなかった。以上の結果から,メロキシカム投与は子宮からのPGF2α産生を抑制することが明らかとなった。しかしながら、受胚牛が未経産牛の場合においてはメロキシカムを投与してもMOETによる受胎率に影響しない可能性が示された。