【目的】体細胞クローンでは、 過大子、生後直死および分娩遅延など分娩前後の異常が多く、胎子性コルチゾールの分泌異常が疑われている。グルココルチコイドは胎盤のアポトーシスを誘導することから、本研究では体細胞クローン牛の分娩時胎盤におけるアポトーシスの発生を解析した。【方法】体細胞クローンを受胎した牛(CL、18頭)はデキサメサゾン、PGF2αおよびエストリオールにより分娩誘起し、分娩時に胎盤節を採取した。対照として体内受精卵の移植により受胎した牛の胎盤節をCLと同様の誘起分娩時(DEX、5頭)、PGF2α・エストリオールによる誘起分娩時(PG、4頭)および自然分娩時(SP、4頭)に採取した。胎盤節におけるBCL2A1、BAXおよびCASP3のmRNA発現量をリアルタイムPCRで解析し、パラフィン包埋切片におけるTUNEL解析も実施した。また、分娩3日後の胎盤停滞の治療記録を調査した。【結果】BCL2A1はSPにおける発現量が顕著に低く、CLとの間に有意差が認められた。BAXおよびCASP3は試験区間に発現量の差はなかった。BCL2A1/BAXの発現量比はSPが最も低く、次いでDEXが低い値を示した。CLはSPおよびDEXに比較して有意に高いBCL2A1/BAX発現量比を示した。TUNEL陽性細胞はSPが最も多く、PGはSPに比較して有意に少なかった。胎盤停滞の治療頭数はCL、DEX、PGおよびSPにおいてそれぞれ6/8(75%)、1/4(25%)、3/4(75%)および0/4(0%)頭であった。以上より、分娩時の胎盤ではグルココルチコイドの影響でBCL2A1/BAX比が低下すると考えられたが、CLではその低下がみられなかった。CLは、TUNEL解析ではDEXと同程度のアポトーシスを示したが、分娩誘起にデキサメサゾンを使用しないPGと同程度の高い胎盤停滞の発生率を示した。