我々は,ブタICSI卵の発生に大きな影響を及ぼす要因は卵への電気刺激による人為的活性化処理であると報告した(Nakai et al., 2006)。しかし,ブタ卵では,受精時に精子が誘起するようなcalcium oscillationを電気刺激処理で再現できず(Sun et al.,1992),このcalcium oscillationの様式の違いがICSI卵の発生低下に関与している可能性が考えられる。一方,我々は,ブタ成熟卵への体外受精(IVF)卵小片の融合により,卵の活性化を効率的に高めることに成功した(前泊ら 第51回哺卵学会報告)。この方法をICSIに応用して,ICSI卵へのより生理的な活性化誘起法の確立および胚発生向上を目指す。 ICSI卵は,既報(Nakai et al., 2006)により作出し,ICSI 1時間後に透明帯を除去した。IVF卵は,媒精4時間後に透明帯を除去し,”Centri-Fusion法”(Fahrudin et al., 2007)によりIVF卵小片 (精子頭部,卵染色体を含まない)を作製しICSI卵への融合を行った(ICSI-IVF区)。融合卵を7日間体外培養し,胚盤胞形成率と細胞数を観察した。対照として,融合時に用いる電気刺激をICSI卵へ付与 (ICSI区),融合刺激を透明帯除去したICSI卵へ付与(ICSI-zona free 区),IVM卵小片を融合(ICSI-IVM区)した区を設けた。 ICSI-IVF区の胚盤胞形成率(28.9%)は,ICSI区(11%),ICSI-zona free区(7.7%)およびICSI-IVM区(4.9%)よりも有意に高くなった(P<0.05)。平均胚盤胞細胞数には各区間に有意な差は認められなかった。 IVF卵小片をICSI卵に融合させることで胚盤胞への発生率が高まることを明らかにした。本法は,ICSIや核移植卵へのより生理的な活性化を誘起できる方法として期待される。