抄録
オートファジーは,リソソームを分解の場とする細胞質成分の大規模な分解経路である。これまでの研究から受精直後に活発に起こるオートファジーは,着床するまでの胚発生に必須であることが明らかとなっている。本研究では,オートファゴソームのマーカータンパク質であるGFP-LC3の発現状況を指標にしてオートファジー活性をモニターするための実験系の構築と受精卵のオートファジー活性とその後の胚発生能との関係を調べることを目的とした。まずGFP-LC3タンパク質をコードするmRNAを体外受精後の1細胞の細胞質へ顕微注入して,GFP-LC3の蛍光レベルを一定の条件下で経時的に観察した。その結果,2細胞期まで安定して発現していたGFP-LC3は,4細胞期に急速に分解することが分かった。この急速な分解は,オートファジーの欠損卵やリソソーム機能を阻害した受精卵では完全に抑制されることから,GFP-LC3の分解はオートファジー依存的に起こることが分かった。次にこのモニター法を利用して,老化卵におけるオートファジー活性を調べた。その結果,一部の老化卵ではGFP-LC3の分解が遅延することが明らかとなった。老化卵ではリソソームマーカーであるLamp1とGFP-LC3の共局在率が高いことから,加齢によってリソソームの酸性状態が破綻することで,本来は急速に分解されるべきGFP-LC3が残存する可能性が示唆された。最後に受精卵のオートファジー活性とその後の胚発生能との相関を調べるために,4細胞期のGFP-LC3の蛍光レベルを指標に受精卵をオートファジー活性の違いで,オートファジー活性が高い受精卵と低い受精卵の2群に分類しその後の胚発生能を比較した。その結果,オートファジー活性が高い受精卵ほど胚発生能が高いことが明らかとなった。これらの結果は,受精卵のオートファジー活性は胚発生を予測するための指標になりうる可能性を示している。