抄録
2011年3月12日の東京電力株式会社福島第一原子力発電所(原発)事故後警戒区域(20キロ圏)内で約3ヶ月間に渡って飼育され続けた原種豚を茨城県笠間市に位置している東京大学附属牧場に救済し,被曝状況,健康状態及び繁殖機能と子孫への影響等に関して調査研究を行った。救済後約3年間経つが健康回復を主眼とした飼養管理と衛生管理を施し,その間定期的に体重測定,血液生化学検査,血液学検査等を行って臨床学的に健康評価を行なった。病死した場合は全頭病理解剖を行い,死因を特定すると共に試料を採集し体内の異なる組織と臓器のセシウム状態を調べた。今現在,救済された26頭の内11頭が病死(平均6.2±2.1歳)した。その内,救済されてから70,90,180と420日後病死され豚に関しては各組織と臓器にて試料を採集し放射性セシウムを測定した。放射性セシウム濃度は順次低下し,420日後には何れの臓器においても放射性セシウム濃度は検出限界以下であった。即ち,豚は屋内にて飼育されても何らかの形で放射線に被曝されたことが確認された。 他,健常と判定した母豚は発情周期に合せ救済された種雄と交配し繁殖能力と子孫への影響を検討した。これまでに救済された母豚16頭の内6頭が14回ほど分娩した。153頭の仔豚を産出し,雄74頭に対して雌79頭である。母豚全頭から2日毎に10回ほど採血し,末梢血中性ホルモンレベル等を調べ繁殖豚と非繁殖豚ステロイドホルモン濃度変化を比較検討し生殖器機能を確認した。 第二世代母豚から4頭にて第3世代を生産し第1世代(救済母豚)から生産された仔豚と性別バランス,出生時体重,産児数そして子孫への影響を検討した。今現在46頭仔豚が生産された(雄23頭&雌23)。 また,定期的に血液を採取し生化学および血液学検査行った。比較対照として附属牧場の近隣の養豚場と当牧場から生まれ成育した豚35頭分のデータと比較検討した。