抄録
【目的】生殖細胞に終末分化した卵と精子が融合した受精卵は,全能性を獲得して,初期胚発生の特定の時期までそれを維持している。この全能性の獲得と維持のために重要な事象が,受精卵における母性から胚性への移行時期(maternal to zygotic transition,MZT)である。この移行時期には,胚性遺伝子の活性化(zygotic gene activation,ZGA)と呼ばれる胚性ゲノムの転写と同時に,多くの母性mRNAや母性タンパク質が分解される(Schier AF, Science, 2007)。これまで我々は,1細胞期のminor ZGAの開始制御にユビキチン・プロテアソーム系(ubiquitin-proteasome system, UPS)が関与すること(Shin SW et al., JRD, 2010),及び新しく同定したシャペロンタンパク質ZPACが会合に関与した胚性20Sプロテアソームは初期胚発生に必要であることを明らかにしている(Shin SW et al., Biology Open, 2013)。しかしながら,母性タンパク質の分解が完了するとともに,major ZGAが開始する2細胞期では,UPSが重要な役割を果たすと考えられるが,未だ明らかにされていない。そこで,本研究では2細胞期胚におけるUPSが果たす役割を明らかにすることを目的に,2細胞期胚におけるプロテアソーム阻害剤MG132の一過的な処理がその後の胚発生に与える影響を検討した。【方法】まず,体外受精卵の第一分裂時期から第二分裂時期を同定した。次に,2細胞期でのプロテアソーム活性の動態解析を行った。そして,2細胞期における可逆的プロテアソーム阻害剤MG132の一過性処理が胚発生に影響を及ぼす時間を調べ,最も感受性の高い時期を明らかにした。【結果及び考察】その結果,後期2細胞期の時期に相当する28.5–34.5 hpiに一過性のMG132処理によって,2細胞期以降の胚発生が遅延することが認められた。このことから,今後,更に詳細な解明が必要であるものの,初期胚発生には母性タンパク質分解が正確に制御されることが必要である可能性が示唆された。