抄録
【目的】牛における胚死滅は受胎率低下の大きな要因であり,その原因の一つとして子宮機能異常による胚の発育不全や着床不全が考えられる。近年,子宮内膜における上皮成長因子濃度の低下が早期胚死滅の要因の一つであることがわかってきたが,後期胚死滅については不明な点が多い。本研究では,正常な受胎性を有する牛(正常牛)および後期胚死滅を起こした牛(後期胚死滅牛)の子宮内膜組織における免疫調節および細胞外マトリックス(ECM)リモデリング関連遺伝子の発情周期にともなうmRNA発現動態を解析した。【方法】試験1)発情周期3,14および18日目の黒毛和種牛の左右子宮角から内膜組織を採取し,次の発情時の人工授精で受胎した正常牛7頭の内膜組織におけるIL4,IL10,IFNG(免疫調節因子)およびMMP2,MMP14,TIMP2(ECMリモデリング関連因子)のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより定量した。試験2)試験1と同様の処置後,人工授精の25∼29日後に発情回帰した黒毛和種牛2頭およびホルスタイン種牛4頭の黄体側子宮内膜組織におけるmRNA発現を定量した。ホルスタイン種牛は発情周期3および14日目のみ解析した。【結果】試験1)黄体側におけるIL10 mRNA発現量は,発情周期3日目と比較し18日目に増加した。IL4/IFNG比は両子宮角で,IL10/IFNG比は黄体側で18日目に増加した。MMP2およびMMP14発現量は,両子宮角ともに14および18日目に減少した。TIMP2発現量は,14および18日目に増加し,14日目に比較して18日目で減少した。試験2)黒毛和種後期胚死滅牛2頭では,いずれも正常牛でみられたIL4/IFNG比,IL10/IFNG比およびTIMP2発現量の変化が認められなかった。ホルスタイン種後期胚死滅牛におけるTIMP2発現量は,3日目から14日目にかけて減少した。以上より,子宮内膜における免疫調節およびECMリモデリングの異常が後期胚死滅と関連する可能性が示された。