抄録
【目的】人工制限酵素を用いたゲノム編集技術は,簡易かつ短期間で高効率のノックアウト動物の作製を可能にした。近年では,CRISPR-Casシステムを用いたゲノム編集技術が多くの生物種で行われている。本研究では,CRISPR-Casシステムをノックアウトラットの作製に応用し,その作製効率について検討したので報告する。【方法】標的遺伝子は,X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)の原因遺伝子であるインターロイキン2受容体γ鎖(Il2rg)遺伝子とした。前核期胚は,F344/StmラットをPMSGおよびhCGにより過剰排卵処理し,自然交配により採取した。Il2rg遺伝子を標的としたガイドRNAおよびCas 9 mRNAを胚の前核内へ顕微注入した。注入後の胚は体外培養し,翌日2細胞期へ発生した胚を偽妊娠雌ラットの卵管内に移植することで産仔にまで発生させた。【結果および考察】RNAを導入後,2細胞期に発生した胚の41%が産仔にまで発生した。遺伝子解析の結果,得られた産仔の51%に遺伝子変異が認められた。本研究成果より,CRISPR-Casシステムは,ゲノム編集にこれまで用いられてきたZFNおよびTALENと同様に,ラット胚内でも十分機能することが明らかとなり,簡易かつ短期間でノックアウトラット系統が作製できる新たな方法として利用できることが明らかとなった。今後,人工制限酵素を用いて作製されたノックアウトラットが,様々な研究分野で利用されることが期待される。