抄録
【目的】植物から下等脊椎動物(魚類や両生類)に至るまで,4倍体を含む倍数体が存在しており,特に植物では異質倍数体は古くより品種改良にも利用されてきた。一方,高等脊椎動物である哺乳類では4倍体は着床後間もなく発生異常により死亡する。しかし,4倍体胚と2倍体胚のキメラでは4倍体胚は胎盤として正常に機能できることから,4倍体胚の死亡原因は主に胎仔側に問題があると考えられてきた。本研究は,なぜ4倍体哺乳類が発生途中で死亡するのか明らかにし,4倍体哺乳類を誕生させることを目的とする。 【方法と結果】マウス4倍体胚では将来胎仔を形成する胚盤葉上層(エピブラスト)で特に異常が見られる。その原因を明らかにするため,エピブラストの前駆細胞である胚盤胞の内部細胞塊より4倍体胚由来ES細胞を樹立し,体外で分化誘導を行った。未分化状態では,4倍体ES細胞は2倍体ES細胞とほぼ同様の性質を示した。一方,いったん分化誘導させるとp53依存的な細胞死を起こしたことから,哺乳類の発生過程にはp53依存的4倍体チェックポイントが存在することが示唆された。そこで,p53ノックアウト(KO)マウスから4倍体胚を作製したところ,野生型では胎齢(E)8.5までに発生停止したのに対し,p53-KO胚では少なくともE14.5まで発生が延長された。p53-KO4倍体胚の発生をレスキューするために2倍体ES細胞とのキメラ胚を作製したところ,13匹の新生仔が得られ,そのうち6匹で4倍体由来細胞の寄与が確認された。驚くべきことに,その中には完全に4倍体からなる個体も含まれていた。 【考察】哺乳類の発生過程においてp53依存的な4倍体チェックポイントが存在することが明らかとなった。p53の発現を制御することにより4倍体の発生を延長させることができ,2倍体細胞のレスキューにより4倍体の新生仔マウスを得ることに成功した。