抄録
Neuronatin (NNAT)は新生仔マウスの脳で同定されたタンパク質であり,神経系ではES細胞から神経細胞への分化の促進に関与していることが報告されている。我々は,昨年度の本学術集会で,下垂体においてNNATがSOX2陽性の幹/前駆細胞で発現を開始し,小胞体とそれ以外の細胞内小器官に局在し,ホルモン産生細胞への分化に寄与する可能性を報告した。 本研究では,下垂体におけるNNATの細胞内局在の詳細を解析するために,Nnatを発現する下垂体由来の株化細胞LβT2に,各細胞内小器官の蛍光局在化ベクターの遺伝子導入を行った。NNATの細胞内局在は,既報の小胞体に加え,ミトコンドリアやリソソーム,ペルオキシソームで観察された。これらは細胞内カルシウム (Ca2+)貯蔵を担う小胞体と密接に関係する小器官である。近年,NNATはSERCAと相互作用し,細胞内Ca2+濃度の調節に寄与することが報告されていることからも,NNATはCa2+濃度の調節に寄与することで,下垂体のホルモン産生細胞への分化に機能することが考えられる。そこで,次にCa2+の貯蔵が重要とされる,精巣や卵巣におけるNNATの局在を免疫染色により解析した。精巣の精細管では精子形成過程の精子細胞でNNATのシグナルが観察された。精子細胞におけるNNATの細胞内局在はアクロソーム外層であり,精子形成の先体形成時に寄与することが示唆される。さらに,ライディッヒ細胞もNNAT陽性であり,ここでは顆粒状のシグナルが観察された。卵巣では,主に漏斗の線毛細胞や子宮内膜腺,筋層などでNNAT陽性であった。精巣のライディッヒ細胞や卵巣の子宮内膜腺などは分泌が盛んな細胞であり,両者においても下垂体と共通する機能が考えられる。 細胞の分化,精子形成,分泌や繊毛運動には細胞内のCa2+濃度の調節が重要であることが知られている。従って,下垂体や生殖器で発現するNnatは,各種細胞内Ca2+濃度を調節することで,生殖機能に重要な役割を果たすことが示唆される。