日本繁殖生物学会 講演要旨集
第108回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-102
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生殖工学
ブタ単為発生卵細胞質へのCRISPR/Cas9系mRNAの直接顕微注入によるゲノム編集は多様な標的遺伝子変異を持つ細胞を生む
*佐藤 正宏郡山 実優渡部 聡大塚 正人桜井 敬之稲田 絵美齋藤 一誠中村 伸吾三好 和睦
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抄録

【目的】CRISPR/Cas9系mRNAを直接受精卵へ注入すると,ホモ KO胚が高率に得られることが報告されている。ブタでもこのような報告は数例あるが,その破壊様式(ホモKOかヘテロ KOかなど)に関してはまだ未解明な部分が多い。今回,受精卵に導入されたCRISPR/Cas9系mRNAのゲノム編集の効果をより早い時期に確認するため,「胚盤胞におけるアッセイ系」を確立し,ゲノム編集による標的遺伝子破壊の結果を組織化学的,分子生物学的側面から検討した。【方法】標的遺伝子として異種移植抗原α-Gal epitopeを合成する酵素α-1,3-galactosyltransferase(α-GalT)を選んだ。α-GalTのKOによるα-Gal epitopeの消失は,α-Gal epitopeを特異的に認識するレクチンIB4染色により確認される。屠場から得たブタ卵巣から卵子を採取し,成熟処理後,単為発生のための卵子活性化処置を施した。この単為発生卵子の細胞質に~2 pLのmRNA混合液(Cas9, gRNA, EGFPに対応するmRNA)を顕微注入した。その後,胚盤胞期まで培養し,胚盤胞個々について解析を行った。【結果・考察】mRNAを注入された107個の内,52個が胚盤胞まで発生し,そのうち26個(50%)が明確な蛍光を示したが,その殆ど(96 %, 25/26)では,EGFP蛍光についてモザイクであった。これら胚を固定し,赤蛍光標識IB4で染色した結果,すべて赤蛍光を示したが,EGFP蛍光を発する箇所では赤蛍光の減弱が認められた。胚盤胞を個々にlysisし,ゲノムDNA精製,全ゲノム増幅を施した後,α-GalT遺伝子におけるmutationの有無を16個の胚についてT7E1 assay, sequencingで検討した。その結果,6個(5個が蛍光,1個が非蛍光)にmutationを認めた。sequencing解析から胚盤胞は,ホモKO,ヘテロKO,野生型細胞などから構成されていることが示された。今回の実験から,CRISPR/Cas9はブタ卵子のゲノム編集にも有効であることが示唆されたが,得られた胚はmutationについてはモザイクであり,それを回避するための改善が今後求められる。

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© 2015 日本繁殖生物学会
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