抄録
【目的】 我々は,重度複合免疫不全症(SCID)を発症するIL2RG遺伝子ノックアウト(KO)ブタの体内に,形胚盤胞補完技術を用いて外来の野生型(WT)免疫細胞を形成させることによって,通常の飼育環境下で長期生存可能なキメラ個体を生産することに成功した(中野ら,本大会)。このキメラ個体は,理論上IL2RG KOの形質を有する精子を産生する。本研究では,SCIDキメラブタの繁殖能力と精子の受精能の検証を目的とした。 【方法】 性成熟に達したSCIDキメラブタを,WT雌と交配させ,受胎成立および産仔へのIL2RG-KO形質の伝達を調べた。さらに同個体(9ヶ月齡)の精巣上体精子を凍結保存し,体外受精実験に供した。対照としてWTブタの凍結精巣上体精子を用いた。精子の凍結はNiwaら(1998)の方法に準じて行った。凍結精子の運動性を,精子運動解析装置(SMAS-Pig ver., DITECT)を用いて評価し,さらに体外成熟卵を用いてYoshiokaら(2008)の方法に準じたIVF(媒精濃度:4×105/ml)を行い,受精率および胚発生を調べた。 【結果】 SCIDキメラブタと交配したWT雌(2頭)は,全て受胎した。これまでに21頭の産仔が得られ,全ての雌個体(11頭)にIL2RG-KO形質の伝達が確認された。 SCIDキメラブタ凍結精子試料の運動精子率(41.0%)及び活発前進運動精子率(19.8%)は,WT試料のそれら(34.1%および17.5%)と同等であった。SCIDキメラブタ精子のIVFによりWT精子に比して高い受精率(84/97, 86.6% vs. 46/66, 69.7%, P<0.05)が得られ,一方胚盤胞形成率は両区で同等であった(51/101, 50.5% vs. 42/92, 45.7%)。 【結論】 胚盤胞補完により免疫細胞を補完されたSCIDキメラブタは,正常な繁殖能力を有し,その精子はWTと同等の機能を持つことが明らかとなった。