日本繁殖生物学会 講演要旨集
第109回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-23
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生殖工学
ヒトアポリポプロテイン(a)発現ミニブタの作出
*小沢 政之大久津 昌治三好 和睦
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抄録

動脈硬化症は死亡率第2,3位の心臓,脳血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞)の原因となる疾患である。したがって,その治療法の開発を行うことは,社会的ニーズも緊急性も高い。新しい治療法をいきなりヒトで試す訳にはいかないので,ヒトに近いモデル動物を使って臨床前試験を行う必要がある。血中の高濃度リポプロテイン(a) [Lp(a)] はヒト動脈硬化症の危険因子である。Lp(a)は低密度リポプロテイン(LDL)にアポリポプロテイン(a) [apo(a)]が結合したもので,apo(a)はヒトを含む霊長類にしかないため,適当な動物モデルがない。今回演者らは体細胞核移植法(SCNT)を用いて,ヒトapo(a)発現ミニブタの作出に成功したので報告する。LDLへのapo(a)の結合は本来の合成部位である肝臓だけでなく,血中でも起こることが報告されていた。そこで,肝臓を含むubiquitousな部位での発現を可能にするCAGプロモーターの下流にインフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)タグを付加したヒトapo(a) cDNAを置き,ミニブタ細胞に導入した。apo(a)発現ベクターにあるneo遺伝子の標的であるG418で選別を行い,独立したコロニーを単離し,HA抗体による免疫医染色によりapo(a)発現細胞を同定した。なお,apo(a)発現細胞は小胞体が染色され,合成されたapo(a)の80%以上が分泌されることなく分解されているとする報告と合致する。また,腎臓由来の上皮細胞では安定発現細胞クローンが得られたが,胎児由来線維芽細胞等では得られなかった。apo(a)発現腎細胞をドナーとしてSCNTを行い,導入したapo(a)遺伝子を持ったミニブタの作出に成功した。この個体(F0)の血中Lp(a)濃度は有意に高く(>400 mg/dL),その仔ブタ(F1)4頭の内,2頭にはその形質が伝わっていた。従って,今回得られたヒトapo(a)トランスジェニックミニブタは,ヒト動脈硬化症発症のモデル動物となる可能性がある。

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© 2016 日本繁殖生物学会
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