日本繁殖生物学会 講演要旨集
第109回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-34
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生殖工学
N-アセチル-システインによるマウス二細胞期胚の冷蔵保存期間の延長
*田村 香菜堀越 裕佳椋木 歩竹尾 透中潟 直己
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抄録

【目的】二細胞期胚の冷蔵輸送は,簡便かつ安価な遺伝子改変マウスの輸送法として利用されている。しかし,現在のところ,マウス二細胞期胚は,保存期間の延長により発生能が低下し,72時間以上の保存は困難である。細胞や臓器の冷蔵保存において,酸化ストレスによる細胞質中還元型グルタチオン(GSH)量の低下が生じることが知られている。また,初期胚におけるGSH量の低下は,胚の発生能を低下させる原因となることも報告されている。そこで本研究では,冷蔵保存したマウス二細胞期胚の細胞質中GSH量と胚の発生能の関係を検討し,抗酸化剤であるN-アセチル-L-システイン(NAC)が冷蔵胚の細胞質内GSH量および発生能の改善に対する効果を評価した。【方法】C57BL/6Jマウスから採取した卵子および精子を用いて体外受精を行い,二細胞期胚を作製した。二細胞期胚の冷蔵保存は,M2培地あるいはM2培地にNACを添加した保存液中で行った。二細胞期胚の細胞質内GSH量は,チオール選択的蛍光試薬であるViVid Fluor Cell Blue CMACにて細胞質内チオール基を標識後に蛍光顕微鏡下で観察し,蛍光強度を評価した。また,冷蔵した二細胞期胚の発生能は,体外培養および胚移植により評価した。さらに,NACを添加したM2培地を用いて,冷蔵輸送実験(旭川医科大学-熊本大学間)を行い,輸送された胚の発生能を評価した。【結果・考察】二細胞期胚は,M2培地での保存期間の延長に伴って,発生率及び細胞質中GSH量が低下した。一方,NAC含有M2培地は,二細胞期胚の細胞質中GSH量の低下および発生率の低下を抑制した。さらに,NAC含有M2培地で96時間冷蔵保存した二細胞期胚は,胚移植により産子へと発生した。また,本法を用いて冷蔵輸送された二細胞期胚の移植によっても,産子が得られた。以上,本研究により,マウス二細胞期胚の冷蔵保存における細胞質中GSH量の低下が発生能の低下に関与し,NACが二細胞期胚の保存期間の延長に有用であることを明らかにした。

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© 2016 日本繁殖生物学会
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