【目的】下垂体前葉のホルモン産生は視床下部因子による放出・抑制調節に加え,前葉細胞同士の局所的なパラクライン・オートクライン・ジャクスタクラインなどの細胞間コミュニケーションによっても調節されることが明らかとなっている。細胞表面抗原の一つであるCD90は分子量が最も小さいIgスーパーファミリー分子であり,糖鎖に富むGPI結合型分子として細胞膜に存在する。CD90の細胞外ドメインと,隣接する細胞が発現するインテグリンの細胞外ドメインとが結合すると双方向に情報を伝えることが報告されている。本研究では,CD90とインテグリンとのジャクスタクラインによる局所的な前葉ホルモン産生制御機構の存在を仮定し,まずCD90の下垂体前葉における発現解析を行った。【方法】CD90の発現細胞をin situ hybridization,免疫組織化学によって同定した。そして,細胞表面抗原に対する抗体とビーズを結合させて目的の抗原を発現する細胞を分離できるキット(pluriBead Cell Separation kit)を用い,CD90発現細胞を単離することを試みた。【結果】CD90の発現は,ラット下垂体前葉のほとんど全てのTSH産生細胞において観察された。そして,下垂体前葉細胞の5%ほどを占めるTSH産生細胞が,抗CD90モノクローナル抗体(BD Pharmingen)とpluriBead Cell Separation kitを利用することで,純度65%以上の細胞群として分離・培養することに成功した。【考察】本実験系を利用することで,TSH産生細胞を主とするCD90陽性細胞の初代培養を可能にし,種々の細胞間コミュニケーションによるTSH産生制御機構の解析に応用できると考えている。現在,下垂体前葉におけるインテグリン発現細胞の同定を試みている。