【目的】体外で卵子形成の全過程を行う技術の開発は,生殖細胞の研究や,産業・医療分野でも応用が期待される。しかし始原生殖細胞を含む受精後12.5日目(E12.5)のマウス胎仔生殖巣の器官培養では機能的な卵子を得るには至っていない。一因として,卵胞形成不全が挙げられる。発表者らはこれまでに網羅的遺伝子発現解析により,in vitroで分化した卵巣ではステロイドホルモン応答に関わる遺伝子で差次的発現がみられ,またAmhの発現がin vivoに比して高発現することを報告した。本研究では,卵胞形成を遂行させるためのin vitro系の構築を目的とし,ステロイドホルモン受容体の阻害剤を用いて卵巣の器官培養を行った。【方法】マウスE12.5胚の卵巣をTranswell-COL上で10%FBS添加alphaMEM培地にて17日間培養した。培養5–11日目にはエストロゲン,アンドロゲンあるいはプロゲステロン受容体の阻害剤を添加した。培養17日目に二次卵胞をタングステン針で単離して卵胞形成を評価した。また培養7日目にRNAおよびタンパク質を抽出し,qRT-PCR法およびウエスタンブロット法によりAmhの発現を定量した。【結果】エストロゲン受容体にはESR1およびESR2のサブタイプが存在する。その両方を阻害するICI182780(ICI)を添加した場合に,卵胞形成が最も顕著に改善され,1卵巣あたり36.8個の二次卵胞が回収された。無添加条件(2.7個)に比べ劇的に改善した(p<0.001)。さらにESR1およびESR2それぞれに特異的な阻害剤であるMPPあるいはPHTPPを添加したところ,MPPを添加した場合には卵胞形成が改善された(27.6個,p<0.001)。一方,アンドロゲンあるいはプロゲステロン受容体の阻害剤,KW-365あるいはMifepristoneをそれぞれ添加した場合には,卵胞形成は改善されなかった。またICI添加条件で培養した卵巣では,無添加条件で培養した場合に比べてAmhの発現が1/4以下に減少し,in vivoと同程度となった(p=0.78)。MPP添加条件ではAmhの発現量は1/2以下に低下した。このことから培養卵巣においてAmhはEsr1の制御下で発現し,卵胞形成に阻害的に働くと考えられた。