[背景]高脂肪食マウスの肝臓細胞では,SIRT3発現の低下を介したミトコンドリア(Mt)タンパク質の高アセチル化が観察されているが,この現象はMt機能の低下と深く関連している。母体の肥満は卵母細胞(卵子)のMt機能を低下させるが,これがMtタンパク質の高アセチル化と関係しているのかは定かでない。本研究では,ヒト卵胞液中において肥満に伴い唯一増加する脂肪酸であるパルミチン酸を用い,これがブタ卵子内Mtに及ぼす影響について検討した。[方法]BSAに結合させたパルミチン酸をブタ卵子体外成熟培地に添加し,Mt機能とその関連因子に及ぼす影響について検討した。培養には完全合成培地であるPorcine Oocyte Mediumを用いた。[結果・考察]パルミチン酸0.5 mMの添加により卵子内への脂質蓄積の亢進と成熟率の低下,活性酸素(ROS)量の増加とATP量の低下が観察された。一方パルミチン酸添加は卵子内Mt DNAコピー数に影響しなかった。次にパルミチン酸の添加がMtタンパク質のアセチル化に及ぼす影響を検討するため,Mt外膜のTOM20とアセチル化リジンの抗体を用いて共染色を行い,共局在を検討したところ,2つのシグナルが共在する程度がパルミチン酸添加卵子において有意に高く観察された。さらにパルミチン酸添加卵子ではMtタンパク質の脱アセチル化を制御するSIRT3の発現が減少しており,SIRT3の上流因子であるリン酸化AMPKの量も減少していた。そこでAMPKの活性化剤であるAICAR(250 µM)を成熟培地に添加したところ,パルミチン酸添加によって減少していたSIRT3発現とリン酸化AMPK量が非添加区と同程度まで回復し,さらに卵子内ROS量の減少とATP量の増加も観察された。これらのことからパルミチン酸は,AMPKやSIRT3の抑制を介して卵子内Mtタンパク質の高アセチル化を引き起こし,Mt機能を低下させる可能性が示唆された。