【目的】脊髄損傷患者では精巣機能が低下し不妊を呈することが知られており,末梢神経による精巣機能制御が予想される。本研究では,精巣機能制御における末梢神経の役割を明らかにすることを目的とする。【方法】11dppのC57BL/6N マウスに除交感神経剤6-hydroxydopamine(6-OHDA : 200 µg/testis)を精巣内投与し,5~7 wk後に精巣を回収,解析を行った。まず,病理切片を作製し,精子形成の評価をジョンソンスコアにて数値化した。また,Sulfo-NHS-biotinを精巣内注入し,精細管内への流入の有無を確認することによって血液精巣関門の機能評価を行った。【結果】6-OHDA処置精巣において,伸長精子細胞の減少が見られるとともに,ジョンソンスコアの低下が確認された。さらに,Sulfo-NHS-biotinの精細管内への漏洩も確認された。これらの結果は,円形精子細胞から伸長精子細胞への成熟過程・血液精巣関門を構成するセルトリ細胞の機能において,交感神経が重要な役割を担っていることを示している。【考察】ライディッヒ細胞が産生する精巣内のテストステロンは円形精子細胞から伸長精子細胞への移行,および血液精巣関門の機能に重要であることが知られている。精巣内交感神経除去が引き起こす現象は,テストステロンの欠乏による精巣機能異常と類似している。このことから,6-OHDA処置精巣では,テストステロン産生あるいはその作用メカニズムに異常をきたし,精子形成不全が引き起こされている可能性が考えられる。今後,ライディッヒ細胞におけるテストステロン産生メカニズム,あるいはセルトリ細胞におけるテストステロン作用メカニズムが正常に機能しているのかを検討する予定である。