主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第112回日本繁殖生物学会大会
回次: 112
開催地: 北海道大学
開催日: 2019/09/02 - 2019/09/05
ウシやヒトにおいて,精子が受精能獲得条件下で活性酸素種(ROS)を産生することが報告されており,またROSが受精能獲得に必須なcAMP/プロテインキナーゼA(PKA)経路を活性化すると報告されている。しかし哺乳類精子がどの様にROSを産生しているのか,またROSがどのように受精能獲得に関わるのかは不明である。そこで我々は,マウス精子を用いてROS産生と受精能獲得の関連について研究を行った。まず受精能獲得条件下(重炭酸イオン及びウシ血清アルブミン存在下)におけるマウス精子によるROS産生を,ルミノールを用いた化学発光法により調べた。すると,受精能獲得条件下においてROS産生が活性化することが分かった。次にマウス精子がどの様にしてROSを産生しているのかを調べるために,ヒト精子でROS産生への関与が示唆されているNADPHオキシダーゼ(Nox)の関与ついてNox阻害剤(Apocynin)及びNADPHを用いて調べた。するとApocyninによりROS産生が阻害され,一方NADPHによりROS産生量が増加した。これらの結果は,マウス精子はNoxによりROSを産生していることを示唆する。次に産生されたROSがマウス精子のcAMP/PKA経路を活性化するかどうかについて調べた。すると,ROSをカタラーゼ等の酵素で除去してもPKA基質のリン酸化状態は変化せず,また過酸化水素を培地に直接加えるとPKA基質のリン酸化状態は低下した。またcAMP/PKA経路が受精能獲得条件下でのROS産生活性化に関わっている可能性を探るために,アデニル酸シクラーゼ阻害剤LRE1や,PKA阻害剤H89がROS産生に与える影響を調べた。しかしこれらの阻害剤はROS産生に影響しなかった。一方カタラーゼ存在下で前培養したマウス精子を用いて体外受精を行ったところ,受精が完全に阻害された。これらの結果より,マウス精子においてROS産生は受精に必須であり,その制御はcAMP/PKA経路と独立に行われていることが示唆された。