主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第112回日本繁殖生物学会大会
回次: 112
開催地: 北海道大学
開催日: 2019/09/02 - 2019/09/05
【目的】ウシ受精卵は卵細胞質内に脂肪滴を多く含んでおり,光学顕微鏡下での前核の観察は困難とされている。そこで我々は,ウシ体外受精(IVF)卵に対して卵細胞質内の脂肪滴除去を施行し,タイムラプスシステムを用いて培養を行い,前核の観察を試みた。また,得られた動画をもとに2前核胚の前核を動的に観察し,胚発生との関係性を解析した。【方法】脂肪滴除去を行うため,IVF後6時間に卵丘細胞を除去したウシ卵を5.0 µg/mlサイトカラシンDを添加したTCM199に30分間浸漬し,遠心処理を行った。遠心後直ちに,卵細胞質から囲卵腔に遊離した脂肪滴をマイクロマニピュレーターに装着したガラスピペットを用いて除去し,タイムラプスシステムを用いて8日間培養した。培養終了後,得られた動画をもとに受精状態,前核の出現・消失時間ならびに卵割および胚盤胞形成を観察した。【結果・考察】脂肪滴除去卵の卵割率,胚盤胞発生率はそれぞれ95.7%,62.7%であり,脂肪滴非除去卵の93.6%,54.5%と有意差は認められなかった。脂肪滴除去卵の受精状態を観察したところ,それらの中には2前核胚が72.9%, 1前核胚が7.1%, 多前核胚が15.7%, 0前核胚が4.3%含まれていた。その後の胚発生を観察したところ,0前核胚を除く全ての胚が卵割し,胚盤胞へ発生した胚は2前核胚で68.6%, 1前核胚で40.0%, 多前核胚で45.5%であった。ロジスティック回帰分析の結果,IVF開始から前核出現まで,前核消失から卵割までにそれぞれ要した時間の延長,および前核出現から消失までに要した時間の短縮は,2前核胚の胚盤胞発生に負の影響を与えることが示された。以上,脂肪滴除去および可視光タイムラプスシステムがウシIVF胚の発生を低下させることなく胚発生と前核の動態との関係性を解析する方法として有用であることが示唆された。