主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第112回日本繁殖生物学会大会
回次: 112
開催地: 北海道大学
開催日: 2019/09/02 - 2019/09/05
【目的]】前回大会において,マウス,ラットのKOの補完的役割としてのKOゴールデン(シリアン)ハムスターの作製について報告した。ゴールデンハムスターは最初に精巣上体精子のIVFに成功した動物であり,受精機構の解明に貢献してきた。先体反応研究もその一つであり,先体の主要な加水分解酵素であるアクロシンの重要な働きが示唆された。しかし,マウスおよびラットのアクロシンKO雄では明確な表現型が生じないために,現在,アクロシンは受精には必須で無いと考えられている(Baba et al., 1994, Isotani et al., 2017)。本研究ではアクロシン KO ハムスターを作製し,アクロシンの役割を改めて解析した。【方法】アクロシンの活性中心であるセリンを挟むように上流,下流それぞれに3つのgRNAを設計し,Cas9タンパク質と共に0.7日胚にGONAD法(Takahashi et al. 2015)で導入した。産仔のDNAシークエンス解析によりKO個体を選別し,得られたホモKO雄用いて自然交配およびIVF,酵素活性測定,タンパク質発現,位相差及び電顕による形態観察等の表現型解析を行った。【結果と考察】GONADの結果5匹のKO個体が得られ,WTと交配し次世代が得られた1匹を系統化した。タンパク質解析,酵素活性評価では,アクロシンタンパク質が発現しておらず,酵素活性も見られなかった。また,精子頭部観察により,WT精子と同様にKO精子でもacrosome-reactionは起こっており,先体内膜が露出しているところが観察された。WTの雌とホモKO雄の自然交配では,雌の膣内に精子が確認されても妊娠せず,雄の不妊が確認された。またIVFでは媒精6–7時間後に雌雄前核の有無を確認したところ,KO精子を媒精した胚では雄性前核が見られなかったことから(WT 43/57 vs. KO 0/33),KO精子には卵と受精する能力がないことが示されたが,透明帯を除去した胚とは受精したことから,アクロシンは透明帯浸入に関与することが示唆された。