主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第114回日本繁殖生物学会大会
回次: 114
開催地: Web開催(京都大学)
開催日: 2021/09/21 - 2021/09/24
【目的】DNA/RNAヘリカーゼSETXは,転写時に形成される三重鎖核酸構造R-loopを解消する機能を持つ。SETXの欠損は,減数分裂前期で精子形成が停止することによる無精子症を引き起こすことが知られている。R-loopの形成は,転写因子の標的配列上へのリクルートを促進し,DNAメチル化を阻害するというエピジェネティックな転写促進機能を有する。したがって,上記のSETX欠損で見られる病態には,減数分裂期生殖細胞の転写異常が関与することが示唆されるが,R-loop未解消によるDNA損傷の表現型が優位となり,その転写異常の詳細は十分に検討されていない。そこで本研究では,減数分裂期の精母細胞におけるSETXを介した転写制御機構の解明を目的とした。【方法】SETX欠損生殖細胞における転写異常を調べるために,正常およびSETX欠損マウスの精巣から抽出したmRNAを用いて,トランスクリプトーム解析を行なった。次に,SETXのゲノム局在を調べるために,CUT&Tag法によるエピゲノム解析を行った。さらに,SETXが転写因子のリクルートに機能するかを明らかにするために,レポーターアッセイを行った。【結果】トランスクリプトーム解析の結果,SETX欠損では減数分裂や精子形成に重要な遺伝子群の発現が顕著に減少(SETX-DEG)していた。さらに,エピゲノム解析の結果,約25%のSETX-DEGの遺伝子領域には,SETXピークが確認された。さらに,遺伝子領域にSETXピークを持つ複数の転写因子群によってSETX-DEGは制御されていることが示唆された。興味深いことに,これらの転写因子の中には,減数分裂前期において重要なパイオニア転写因子であるMYBL1(A-MYB)が含まれていた。さらに,レポーターアッセイの結果,SETXはMybl1遺伝子の転写を促進することが明らかとなった。以上の結果より,SETXは減数分裂前期に重要な転写因子の発現を促進することで,この時期の転写を制御する役割を果たしていることが示唆された。