抄録
【目的】培養液中のストロンチウムはヒト,マウス,モルモットおよびハムスターの精子運動性の維持・増加,受精能獲得および先体反応を誘起する。本研究では,ブタ精子の生存性ならびに先体反応に及ぼす塩化ストロンチウム(Sr)の影響を調べた。また,受精効率に及ぼす影響を調べるため,Sr処理した精子をブタ成熟卵母細胞に2種類の手法を用いて顕微注入し,受精ならびに胚発生について検討した。【方法】ブタ低温保存精子をSr添加培養液で1~2時間培養したのち,LIVE/DEAD Sperm Viability Kitを用いて生存率を,電子顕微鏡を用いて先体の形態を調べた。ブタ卵巣内の直径4~6 mmの卵胞から採取した卵母細胞を44~46時間成熟培養したのち,Sr処理精子を常法あるいはピエゾ装置を用いて卵母細胞に顕微注入した。注入18時間後に固定・染色して正常受精率(雌雄前核・2極体)を調べた。さらに,顕微注入した卵母細胞をPZM3(0~5日)およびウシ胎児血清添加PZM(5~7日)中で7日間培養して胚盤胞への発生を調べた。【結果】培養前,79%の精子が生存性を示した。Sr処理後,39%(0 mM),25%(1.9 mM)および24%(7.5 mM)の精子がそれぞれ生存性を示した。Sr無添加区では先体反応を開始した精子は10%であったが,Sr濃度の上昇にともなって先体反応を開始した精子数は増加した(1.9 mM,22%; 7.5 mM,33%)。Sr処理精子を常法に従って卵母細胞に注入した場合,34%(0 mM),43%(1.9 mM)および41%(7.5 mM)の卵母細胞が正常に受精した。次にピエゾを用いて精子を注入したところ,61%,62%および59%の卵母細胞がそれぞれ正常に受精した。最後に,1.9 mMのSrで処理した精子を注入して発生させた場合,18%(常法)および33%(ピエゾ)の卵母細胞がそれぞれ胚盤胞に至った。【考察】以上の結果は,ブタにおいてもSrが精子の受精前の生理的反応を支持できることを示している。また,ブタの顕微注入にピエゾ装置を用いることによって正常受精および胚盤胞への発生を高めることが示された。