2度の皮質下出血による両側の頭頂葉および後頭葉損傷後に,多様な視覚性認知の障害や自己身体定位障害を背景とする,希有な動作所見を呈した症例を経験したため報告する.本症例では四肢の明らかな運動麻痺,重篤な注意障害,記銘力障害,半側空間無視はなく,知的能力は概ね保たれていた.一方,本症例はベッドにまっすぐに寝られない,椅子にまっすぐに座れない,足部で段の位置や高さを探るように階段を降りる,電話の受話器を斜めに置く,マットを斜めに敷く,パターでゴルフボールを打てないなどの,特徴的な動作所見を呈した.頭部CT画像所見,神経学的所見,神経心理学的所見より,「立体視の障害」,「距離判断の障害」,「自己身体定位障害」,「物と物の位置関係を正しく定位することの障害」が本症例にみられた特徴的な動作所見に関連している可能性が考えられた.