脳科学とリハビリテーション
Online ISSN : 2432-3489
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研究報告
  • 若旅 正弘, 大村 優慈, 石橋 清成, 岡本 善敬, 山本 哲
    2018 年 18 巻 p. 1-8
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    左被殻出血では多様な領域に血腫が進展し,様々な認知機能障害,情動障害を呈する可能性があるが,血腫の進展方向とFIM認知項目の予後との関連性は明らかとなっていない.そこで本研究は,これらの関連性を検討することを目的とした.左被殻出血患者19例を対象とした.先行研究に準じ,頭部CT画像(松果体レベルの横断像)を用いて,前頭葉先端から血腫前端の距離をA,後頭葉後端から血腫後端の距離をB,大脳の前後長をC,大脳の外側端から血腫外側端の距離をD,大脳縦列から血腫内側端の距離をE,大脳の最大横径×1/2をFとし,前方比=(A/C)×100,後方比=(B/C)×100,外側比=(D/F)×100,内側比=(E/F)×100として算出した.血腫の各進展比と発症3ヶ月時点のFIM認知項目との相関を評価した.前方比は「社会的交流」「記憶」を除くFIM認知項目と有意に相関した.後方比は「社会的交流」のみと,外側比は「問題解決」のみと有意に相関したが,内側比は有意に相関した項目はなかった.血腫の進展方向により,有意に相関するFIM認知項目が異なっていた.FIM認知項目は日常生活の認知・情動面に対する介助量を示す.したがって,本研究結果は血腫の進展方向により,発症3ヶ月時点の左被殻出血患者が認知・情動面において日常生活上で介助を要する場面が異なることを示唆するものである.

症例報告
  • 加藤 將暉, 高杉 潤, 市川 雄大, 山咲 桂子, 市川 聖子, 足立 真理, 後藤 恭子, 中村 純子, 大賀 辰秀, 井田 雅祥
    2018 年 18 巻 p. 9-18
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    延髄外側の病変により,稀に病巣側上下肢のweakness(Opalski症候群)や,眼球の病巣側への側方突進(ocular lateropulsion: OL)が生じる.Opalski症候群の機序は,通常よりも高位で錐体交叉が生じている者が延髄外側病変を発症した際に,錐体交叉後の皮質脊髄路が延髄外側部で障害を受けることで生じる.また,OLは下小脳脚病変によって生じ,線維連絡により反対側の傍正中橋網様体の活動が低下するため生じる.両者の病巣は近似していながら,併発した症例の報告や,OLの予後や仕事復帰の可否を論じた報告はほとんどない.本研究では,延髄左外側梗塞を発症した30代女性症例(職業:事務員)を示す.第46病日,左上下肢のOpalski症候群を認め,歩行に介助を要した.眼科所見では,OLによる眼球の左共同偏倚が認められ,右への眼球運動は非常に努力的で眼精疲労の強い訴えも聴かれた. 経過にともない左上下肢の筋力は改善し,第140病日(退院時)で屋外歩行は自立した.眼科所見では,徐々にOLの改善が認められるも遷延し,仕事復帰は困難であった.退院後もOLは改善し,発症後13ヶ月で事務職員として復職した.本症例は自立歩行の獲得に 4 ヶ月程度を要し,Opalski症候群例の既報告と同様であった.OLに関しては,重度でも長期経過で改善し仕事復帰まで至る可能性が示された.

  • 須江 慶太, 平林 一, 栗木 淳子, 片井 聡
    2018 年 18 巻 p. 19-24
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    Pusher現象は通常,損傷半球の反対側に生じ,右半球損傷であれば左側へ,左半球損傷であれば右側へ押す現象である.我々は脳損傷側と同側へのpusher現象が生じた症例を経験した.症例は右半球にも陳旧性の病巣が認められる82歳男性で,左半球側頭葉に脳出血が生じた脳卒中再発例である.本症例のpusher現象は,今回再発した右半球と同側に生じるという特異的な現象であった.近年の報告で,pusher現象の発現や回復の遅延には右半球病変が左半球よりも関連があることが明らかになりつつある.再発により両側半球損傷を負った本症例における特異的なpusher現象の発現には,陳旧性の右半球病変の関与が考えられた.

短報
  • 萩原 晨功, 安田 和弘, 大平 雅弘, 冨山 美咲, 齋地 健太, 岩田 浩康
    2018 年 18 巻 p. 25-30
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    物体中心無視は対象物の半側を無視する症状であり,主に側頭葉-頭頂葉ネットワークの損傷と関連することが報告されている.この物体中心無視は,介入手法が十分に確立しておらず,臨床において個別にアプローチすることが難しい.これまでわれわれは没入型仮想現実(immersive virtual reality)の特性を利用して,三次元空間内での半側空間無視への介入手法を提案してきた.本研究では,実生活空間により近い仮想空間内で物体の端に手がかり刺激を呈示することで物体中心無視に介入するシステムを案出した.ここでは,物体中心無視を有する症例を対象として,実行可能性や安全性・症状への影響を検証するために適応を行ない,Apples test,線分二等分課題,線分抹消課題の評価を行なった.機器の適応および実施手順のなかで,めまいや嘔吐感,不快感を訴えることはなく,患者は安全に課題遂行が可能であった.物体中心無視症状の変化として,遠位空間におけるApples testのエラー率,線分二等分課題において改善傾向が認められたが,この傾向は近位空間では認められなかった.本検討で実行可能性が担保されたため,今後,必要となるシステム改変および実験制約を再考し,より多くの被験者を対象に再現性を検証する.

経験
  • 安部 厚志, 石橋 清成, 若旅 正弘
    2018 年 18 巻 p. 31-34
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    2度の皮質下出血による両側の頭頂葉および後頭葉損傷後に,多様な視覚性認知の障害や自己身体定位障害を背景とする,希有な動作所見を呈した症例を経験したため報告する.本症例では四肢の明らかな運動麻痺,重篤な注意障害,記銘力障害,半側空間無視はなく,知的能力は概ね保たれていた.一方,本症例はベッドにまっすぐに寝られない,椅子にまっすぐに座れない,足部で段の位置や高さを探るように階段を降りる,電話の受話器を斜めに置く,マットを斜めに敷く,パターでゴルフボールを打てないなどの,特徴的な動作所見を呈した.頭部CT画像所見,神経学的所見,神経心理学的所見より,「立体視の障害」,「距離判断の障害」,「自己身体定位障害」,「物と物の位置関係を正しく定位することの障害」が本症例にみられた特徴的な動作所見に関連している可能性が考えられた.

  • 小針 友義, 村山 尊司, 松澤 和洋, 井上 晃穂
    2018 年 18 巻 p. 35-40
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    近年,Constraint-Induced Movement Therapy(CI療法)のコンセプトが下肢麻痺に対しても応用されているが,その治療効果に関する報告は未だ乏しい.本研究の目的は,慢性期脳卒中下肢麻痺症例に対するCI療法のコンセプトを応用した下肢集中訓練が臨床的アウトカムに及ぼす影響を検証することである.左視床出血と診断された40歳代の男性を対象とした.発症から489日後に下肢集中訓練を開始した.本訓練は1日3.5時間を平日5日間,3週間実施された.評価にはFugl-Meyer Assessmentの下肢項目,10 m歩行テスト,Timed Up and GO test(TUG),Berg Balance Scale(BBS),6分間歩行テスト(6MWT)を使用した.下肢集中訓練実施前後で10 m歩行テスト,TUG,BBS,6MWTに向上がみられた.慢性期脳卒中片麻痺者に対するCI療法のコンセプトを応用した下肢集中訓練は歩行能力やバランス能力の向上に影響を及ぼす可能性がある.

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