抄録
胃がん発生において、腸型(分化型)、びまん型(低分化型)のがん発症メカニズムは異なると考えられている。原爆被爆者では胃がんリスクは高いが、組織学的異型度の検討では、2、3の報告で高線量群に低分化型胃がんが多いことを報告されているにすぎない。また、これまでの調査では、ピロリ感染などの危険因子を考慮されていなかった。そこで、この研究は胃がん発症前の血清を用いH.pyroli感染などの危険因子および原爆放射線被ばくと胃がん組織学的異型度との関係を検討した。
研究デザインは、コホート内症例・照研究である。広島、長崎放影研で1958年から2年に1回の健診で追跡している約2万人の成人健康調査において発生した胃がん299例と、対照者として症例1に対して、出生年、性、都市を一致させた3人を選んだ。胃がん発症前(平均2.3年)の血清を用いH.pyroli抗体を測定し、ぺプシノーゲン法で萎縮性胃炎を判定した。胃がん発生部位(噴門部、非噴門部)、異型度は、広島長崎の腫瘍、組織登録の情報を使い、非噴門部胃がん腸型152例、びまん型147例であった。
H.pyroli感染、萎縮性胃炎があると、腸型、びまん型ともにリスクは増加した。腸型においては、喫煙および原爆放射線被ばくの関係は認められなかった。びまん型においては、H.pyroli感染、萎縮性胃炎を調整しても、非喫煙者において放射線線量との関係が示唆された。非喫煙者においては、びまん型の相対リスクは1Gyあたり2.2(95%信頼区間0.85-3.72 p=0.08)であった。
原爆被爆者を対象にしたコホート内症例・対照研究から、非噴門部胃がんびまん型においては、H.pyroli感染、萎縮性胃炎を調整しても、非喫煙者に原爆放射線被ばくとの関係が示唆された。