日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第49回大会
選択された号の論文の344件中1~50を表示しています
特別講演
  • 大塚 栄子
    セッションID: SP1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝子としてのDNAの機能を考えると塩基部分に受ける損傷がDNAの情報伝達に大きな影響を与えていることがわかる。今回は紫外線損傷核酸の修復酵素の一つであるT4エンドヌクレエースV、がん遺伝子に生じた損傷が細胞のがん化の引き金となる現象、抗紫外線損傷核酸抗体の分子認識について述べたい。
    1)T4エンドヌクレエースVの切断機構
    T4エンドヌクレエースVのチミンダイマー除去とDNA鎖切断の機構を調べるために合成遺伝子による大量発現とX線結晶解析による3次元構造の決定を行った。また、チミンダイマーを含む合成基質との共結晶化に成功し、酵素が結合した時に相補鎖の塩基がflip outして損傷塩基が切断される機構を明らかにした。
    2)がん遺伝子の変異
    Ras遺伝子の変異頻発部位にチミンダイマーや8-オクソグアニンを導入した合成遺伝子を用いることによって、損傷塩基が変異の原因となりうることを実験的に示した。これは複製時に誤った水素結合を形成するためであると推察される。
    3)抗紫外線損傷核酸抗体の構造と分子認識
    二階堂らの樹立したピリミジンダイマー認識抗体は検出同定などに多用されているが、遺伝子のクローニングを行うことによって、CDRのアミノ酸配列を決定した。(6-4)光産物を含むDNA断片を合成し、佐藤らのグループと共同でFabフラグメントとの複合体の3次元構造をX線結晶構造解析により明らかにした。嶋田らのNMR測定により抗原DNAとCDRの結合の詳細を探った。一本鎖抗体を作成し、変異を導入することによって、抗原との結合の詳細を表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いて調べた。
シンポジウム
がんの機能イメージング
  • 高井 良尋, 金田 朋洋, 袴塚 崇, 仲田 栄子, 岩田 錬, 船木 善仁, 石川 洋一, 辻谷 典彦
    セッションID: S1-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】低酸素細胞増感剤としてポーラ化成研究所で開発されたニトロイミダゾール化合物であるRP-170 (1-[2-hydroxy-1-(hydroxymethyl)ethoxy]methyl-2-nitroimidazole)を18Fで標識した[18F]FRP-170のマウスでの基礎研究および初期臨床応用について。
    【方法】[18F]FRP-170約20μCi/0.1mlを、扁平上皮癌ないし線維肉腫を移植した担癌WHT/Ht albinoマウスの尾静脈より投与し、10、30、60、120分後の生体分布を求めた。血流のイメージとして[14C]IAPを用い2重オートラジオグラフィ(DARG)を行った。肺癌10名、再発食道癌4名、他2名、計16名の悪性腫瘍患者に協力を頂き、初期臨床応用として185MBqの[18F]FRP-170を投与後2時間でPET画像を撮った。6例でダイナミックスタディ(DS)が行われた。
    【結果】生体分布では腎、肝で腫瘍以上の取り込みを示したが、他の臓器では腫瘍以下で画像化が可能と思えた。腫瘍/血液比は扁平上皮癌で1.97(1.36から2.90)、線維肉腫で2.50(1.72から3.60)であった。DARGによって[18F]FRP-170と血流の分布が表裏イメージとなることが示された。患者によるPET画像ではリンパ腫や小細胞肺癌など放射線感受性の高いもので腫瘍/筋肉比が1.0前後、肺癌、再発食道癌、悪性神経鞘腫などで1.25から2.14であった。DSの結果からは1時間でも撮像可能と思われた。
    【結論】[18F]RP-170は腫瘍内の明らかに血流の減少している部位において取り込みが増加していた。臨床画像では、腫瘍/筋肉比1.5以上のものが多く認められ低酸素細胞の存在診断に有用であることが示唆された。この新薬剤は水溶性が高く、臨床応用に有利であろう事が示唆された。
  • 今堀 良夫, 小野 公二
    セッションID: S1-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は癌細胞に高濃度のホウ素を取り込ませなければならない大きな課題があった。このような効果的なホウ素化合物があれば熱中性子と二つの因子の共集合の部分に核反応が起こり効果的な治療法になり得る。かつアルファー線の飛程が約10ミクロンと短いため癌細胞の内部にとどまり浸潤性の癌にはより効果的である。近年、ボロノフェニールアラニン(BPA)が癌細胞に高濃度集積することがわかった。そこでホウ素の集積状況を生体で知り得るために定量性のあるPETが候補にあがりBPAに似たフルオロボロノフェニールアラニン(FBPA)をPETトレーサとして合成した。その結果、腫瘍の活性領域とホウ素濃度を評価することができ治療に必須な情報収集法として認識されてきた。BNCTでも過剰照射に対してはより慎重であるべきでPETを活用するようになって安全に治療を行うことが可能となった。
     このような流れの中、FBPA-PET検査により頭頚部、肺などにも適応拡大が可能であることが明らかになった。特に肺では含気が多く中性子は空気中を良く通る性質のためBNCTの適応においては有利な環境にある。また動脈投与など特殊な投与方法でも正確なホウ素濃度を予測できるようになった。転移性肺癌では限られた領域に複数個見つかることがあり、このような症例では照射野を広くすれば同時に治療することも可能と考えられる。そこで直線加速器によるBNCTも近年積極的に研究課題に取り上げられ現実味を帯びてきた。実用段階に達すれば広範囲にも照射が可能となり大きく癌の治療に貢献することになるものと期待される。さらにFBPA-PETでは取り込みが癌の悪性度に相関するために、照射前の評価のみならず照射後も治療効果の評価が可能で、BNCTのみならず高精度放射線治療や粒子線治療の効果判定にも使用できる。
  • CHERUKURI Murali Krishna, HYODO Fuminori, MATSUMOTO Shingo, MATSUMOTO ...
    セッションID: S1-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    Many solid tumors exhibit hypoxic regions as well as possess high interstitial fluid pressure (IFP). While hypoxia in tumors limits the efficacy of radiation treatment, high IFP limits the efficacy of chemotherapy by inhibiting the accumulation of effective levels of chemotherapeutic drugs. Additionally, hypoxic cells in tumors are more reducing and may offer opportunities for bioreductive drugs or selective normal tissue radioprotectors which do not modify the tumor radioresponse and improve treatment outcome. 
    We have evaluated a variety of non-invasive techniques to monitor tumor oxygen status, tumor IFP and the tumor redox status in experimental animals bearing murine as well as human tumors. Using Electron Paramagnetic Resonance Imaging (EPRI), we have been able to non-invasively map tumor pO2 in three-dimensions with high spatial, temporal resolution with sensitivity to discriminate oxygen status differences of +/- 2 mm Hg. We have also used Overhauser enhanced Magnetic Resonance Imaging (OMRI) to map anatomically co-registered pO2 maps as well as tumor IFP. Using conventional MRI with nitroxyl radicals as T1-sensitive contrast agents which are metabolized selectively to diamagnetic form in tumors, the tumor redox-status was examined.
    In my presentation, I will present results on some recent studies using these techniques to non-invasively examine tumor physiology.
  • 内海 英雄
    セッションID: S1-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    活性酸素や活性窒素種などのフリーラジカル産生あるいはレドックス状態の変化が種々の疾患成因との関連で注目されているが、疾患の成因あるいは進展に関係するのか等に関して明らかでない。生体内で、活性酸素動態、即ち、どの活性酸素が、何時、どこで、どのように産生し、何と反応するか、またレドックス状態がどのように変化しているかを無侵襲画像解析することが可能となれば、酸化ストレス性疾患の病態解明と抗酸化性医薬品の開発に有力な情報となりうる。
    電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance、ESR)は、フリーラジカルを選択的に観測する高感度分析法で、生体計測ESR装置および画像化装置を組み込んだESRIを用いると、実験動物丸ごとで生きたままラジカルを測定し、画像解析できる。我々は、ニトロキシルラジカルをプローブとし、生体計測ESR法を種々の酸化ストレス性疾患モデルに適用し、酸化ストレス性疾患においても活性酸素種の関わりが多様であることが明らかとした。
    近年、オーバーハウザー効果を利用したフリーラジカル画像化装置OMRIが新たな画像化法として報告された。我々はOMRIにニトロキシルプローブを組み合わせ、フリーラジカルやレドックスの動態に関しナノメータースケールで画像を得る方法を開発した。この方法を用いると、膜透過性や生体内分布が異なるニトロキシルプローブを区別しナノメータースケールで可視化できる。また、ニトロキシルプローブとその還元体を14N、15Nで標識することで酸化還元の両反応を分離画像できた。本講演ではこれら画像化の手法の原理とその応用例について紹介する。
New Nuclear Research Symposium on Biological Response to Low Dose Radiation-New Aspects of Low Dose Radiation Effects
  • 能美 健彦, 池田 恵, 増村 健一, 坂元 康晃, 王 冰, 根井 充, 佐久間 慶子, 早田 勇
    セッションID: S2-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトは多くの化学物質に曝露されており、低線量(率)放射線の生物影響を考える際には、放射線のみの影響ではなく、化学物質との複合影響を勘案する必要がある。突然変異検出用トランスジェニックマウスを用い、低線量率放射線とタバコ特異的ニトロサミン4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone (NNK)の複合遺伝毒性を検討した。雌gpt deltaトランスジェニックマウスにγ線を異なる線量率(0.5, 1.0, 1.5 mGy/h)で22時間/日、2週間照射した。照射を継続しつつNNKを腹腔内投与(2 mg/mouse x 4 days)し、照射下でさらに2週間飼育した。屠殺後、肺における塩基置換突然変異と欠失変異を測定した。NNK投与により塩基置換変異頻度は3-8倍上昇したが、γ線照射による顕著な複合影響は観察されなかった。一方、γ線照射による1 kb以上の欠失変異頻度は、NNK非投与群では照射線量に依存して上昇したが、NNK投与群では用量依存曲線が釣り鐘型になり、1.5 mGy/hでの変異頻度が非照射群と同程度にまで減少した。NNKと放射線の複合遺伝毒性機構について討論する。
  • 藤川 和男, 加川 尚, 小野 哲也, 早田 勇
    セッションID: S2-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    長期間にわたって低線量率放射線によって誘発された突然変異が体組織幹細胞に蓄積するかどうかを明らかにするため、Dlb-1座のヘテロマウス (Dlb-1b/Dlb-1a) に線量率0.04,0.86 あるいは15.56 mGy/day のγ線を8から78週齢にかけて483日間連続照射した。総線量は0.02、0.42 あるいは 8.0 Gyとなった。Dlb-1bは小腸絨毛上皮でフジ豆レクチンの受容体を発現させ、Dlb-1aは非発現の遺伝子である。照射2週間後、被曝マウスから小腸空腸部を採取し、定法に従って、フジ豆レクチンで染色した突然変異検定用標本を作成した。この標本を実体顕微鏡下で観察して、絨毛上皮の幹細胞におけるDlb-1b遺伝子の突然変異を絨毛表面で変異クローンとして検出した。各マウスで約10000の絨毛を観察し、現在まで各群18から19個体のうち10個体分の検定を終えている。変異クローン頻度は絨毛10000あたりのクローン数とし、対照群、低線量照射群、中線量照射群および高線量照射群でそれぞれ25.6±0.8, 25.6±0.8, 26.1±0.8, 35.2±1.0となり、有意な照射効果が高線量照射群で認められた。回帰分析から求めた単位線量1Gyあたりの誘発率1.38±0.33は、別途行った8から13週齢のヘテロマウスに対する線量率0.1から3 mGy/minのγ線照射実験で求めた誘発率1.20±0.08とエラーの範囲内で一致した。この結果は次の結論を支持する:(1)長期間にわたって低線量率放射線によって誘発される突然変異は体組織幹細胞に蓄積する;(2)突然変異誘発に関する体組織幹細胞の放射線感受性は加齢によって変化しない。本シンポジウムでは変異クローンのサイズについて得られたデータも報告し、長期照射中に絨毛あたりの幹細胞の数が不変であった証拠も提出する。
  • Hei Tom
    セッションID: S2-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    Generations of students in radiation biology have been taught that heritable biological effects require direct damage to DNA. Radiation-induced bystander effect represents a paradigm shift in our understanding of the radiobiological effects of ionizing radiation in that extranuclear and extracellular effects may also contribute to the biological consequences of exposure to low doses of radiation. Although radiation induced bystander effects have been well documented in a variety of biological systems, including 3D human tissue samples, the mechanism is not known. There is recent evidence that the cyclooxygenase-2 (COX-2) signaling cascade plays an essential role in the bystander process. The observations that heritable DNA alterations can be propagated to cells many generations after radiation exposure and that bystander cells exhibit genomic instability in ways similar to directly hit cells indicate that the low dose radiation response is a complex interplay of various modulating factors. A better mechanistic understanding of cellular and tissue responses to low dose / low dose rate radiation will provide important insights into how radiation induces its effects.
  • Azzam Edouard I.
    セッションID: S2-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    Exposure of cell populations to ionizing radiation results in communication of signaling molecules between irradiated cells and between irradiated and non-irradiated cells in the population. This phenomenon, termed the ‘bystander response’, has been shown to occur both in vitro and in vivo. It affects the overall response of exposed cells and results in induction of significant biological effects in unirradiated bystander cells and their progeny. Genetic alterations, changes in gene expression and lethality have been shown to occur in bystander cells that neighbor directly irradiated cells. The roles and mechanisms of oxidative metabolism and gap-junction intercellular communication in modulating bystander responses in human cells are under intense investigation. Molecular and biochemical aspects of these processes in determining overall responses of cell populations exposed to high and low linear energy transfer radiations will be discussed.
  • CHEVILLARD Sylvie, UGOLIN Nicoals, ORY Kathy
    セッションID: S2-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    Transcriptome analysis permits to explore the field of low doses of radiation and potentially it can provide a global view of radiation responsive pathways. We have exposed a human lymphoblastoid cell line to either 0.02 or 2 Gy of ionizing radiation that yielded relatively little or faint cytotoxicity and little or no apoptotic DNA fragmentation. We used cDNA microarrays to examine the modulation of gene expression at various time points within 72 hours following gamma radiation exposure. We observed that 1) a lower number of genes are deregulated after 0.02 compared to 2 Gy, 2) some genes are specifically deregulated according to the dose while others are similarly deregulated whatever the dose, 3) all responsive genes after both doses and those specifically deregulated after 2 Gy are mainly involved in signal transduction, cytoskeleton, protein metabolism and catabolism, intracellular trafficking and transcription factors whereas genes specifically deregulated after 0.02 Gy are mainly related to signal transduction, cytoskeleton, stress response, ionic transport and channel 4) after both doses, responsive genes related to cell survival and death are in good agreement with data obtained on cell survival and death and 5) overall results support the hypothesis that low doses of ionizing radiation lead to a typical stress-induced translation inhibition and RNA processing alteration. This work underlines the need of further efforts to explore the effects of low doses of radiation.
  • MITCHEL Ron
    セッションID: S2-6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    Low doses in vitro and in vivo induce an adaptive response that reduces both radiation-induced and spontaneous risks. A single low dose of low LET radiation increased the latency (with no change in frequency) of radiation-induced or spontaneous cancer in both normal and cancer prone (Trp53 heterozygous) mice. A prior low dose given during the time of fetal organ development lowered the risk of radiation-induced birth defects, and a low dose prior to a high dose protected the offspring of male mice from heritable mutations produced by a subsequent large dose. Chronic exposures protected against age related ulcerative dermatitis in Trp53 normal (but not Trp53 heterozygous) mice. These observations challenge the Linear No Threshold Hypotheses and other principles and practices used for radiation protection. Dose thresholds for increased risk of cancer are apparent. Below those dose thresholds overall risk is reduced below that of the unexposed controls, indicating that dose rate reduction factors (DDREF) approach infinity. Different tissues have different thresholds for detriment, indicating that individual tissue weighting factors (WT) are also not constant. Because risk from low LET radiation is not constant with dose, and dose responses from high LET are non-linear due to detrimental bystander effects, radiation-weighting factors (WR) for high LET radiation cannot be constant at low dose.
広島大・長崎大21世紀COE合同シンポジウム
"The Radiation Casualty Medical Research Center" International Symposium "Genome Damage Response and Genome Stability"
  • 太田 智彦
    セッションID: COE1-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    乳癌および卵巣癌の癌抑制遺伝子産物であるBRCA1は細胞内の複数の経路を統括制御し、ゲノム安定性を維持するハブ蛋白質である。DNA二本鎖切断に対する相同組み換え修復をはじめ、細胞周期、転写、アポトーシスおよび中心体複製の制御がその主要な役割である。癌抑制の鍵といえるこの遺伝子に germ line mutationがおこると約80%という高い浸透率で乳癌を生じる。また、BRCA1遺伝子変異以外の原因によるBRCA1蛋白質の量的あるいは機能的な抑制も散発性乳癌の発癌過程において重要な役割を果たしている。BRCA1の生物学的機能の分子メカニズムを解明する手がかりとして、我々はBRCA1がBARD1とともにRINGヘテロダイマー型のユビキチンリガーゼ(E3)を形成することを発見した。BRCA1による基質のユビキチン化(Lys-6結合型ユビキチン鎖)は一般的なユビキチン化と異なり、分解のシグナルとはならない。その基質として我々はヌクレオフォスミンを同定し、また活性が細胞周期制御因子であるCDK2によって抑制されることを発見した。ヌクレオフォスミンのユビキチン化は中心体複製制御とDNA修復時のクロマチン修飾に重要と考えられる。さらに我々はプロテオミクスを用いたスクリーニングにてRNAポリメラーゼのサブユニットであるRPB8を新たな基質として同定した。ユビキチン化されないRPB8の変異体を安定的に発現する細胞は、BRCA1欠失細胞と同様にDNA損傷にたいする感受性が亢進する。BRCA1のE3活性は複数の生物学的機能を介してゲノム安定性、癌抑制に寄与しており、そのメカニズムの解明は抗癌剤の創薬ならびに抗癌剤感受性予見因子の同定に重要と考えられる。
  • 高田 穣
    セッションID: COE1-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    ファンコニ貧血(Fanconi anemia、FA)はまれな遺伝性疾患で、進行性骨髄不全、骨格異常、白血病などの高発がん性を示す。細胞レベルでは、染色体不安定性と、マイトマイシンC(MMC)等のDNAクロスリンカー剤に対する高感受性が特徴的である。FA患者には12の相補群が存在し、11の原因遺伝子(A/B/C/D1/D2/E/F/G/J/L/Mなど)が同定されている。FancA/C/Gなど8つのFA蛋白は核内でFAコア複合体を形成し、DNA二重鎖切断や停止複製フォークに反応してキーファクターであるFANCD2のモノユビキチン化と核内フォーカス形成を誘導する。FANCD2自体の生化学的機能やその下流のイベントに関しては不明な点が多い。我々は、FANCD2をベイトとしたツーハイブリッドスクリーニング、GFP-FANCD2の核内ダイナミクス解析、FANCD2とユビキチンやヒストンH2Bなどの融合分子の発現により FANCD2によるDNA修復制御機構を解析し、FAコア複合体の多彩な役割を見出したので報告したい。
  • Olga SEDELNIKOVA, NAKAMURA Asako, William M. BONNER
    セッションID: COE1-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    DNA double-strand break (DSB) formation is essential in several normal cellular processes, but accidental DSB formation may lead to cancer and death. A universal cellular response to a DSB is the phosphorylation of histone protein H2AX to form γ-H2AX in the chromatin flanking the break site. Immunostaining with anti-γ-H2AX reveals each nuclear DSB as a focus of γ-H2AX (γ- focus). Normal human cells exhibit increasing numbers of γ-foci as they senescence---from ~0.4 per early passage cell to >2 per late passage cell---and similar increases in the incidence of γ-foci occur in both the somatic and germline tissues of mice as they age. When nascent DSBs are generated in hu-man cell cultures with ionizing radiation, the numbers of nascent γ-foci are similar in cells at different stages of se-nescence but the rates of dimensional focal growth and focal accumulation of DSB-repair proteins are substantially slower in late passage cells and even slower in cells taken from Werner Syndrome patients, who exhibit premature aging and genome instability. Young fibroblast cultures induced to prematurely senesce by exposure to DNA damaging agents exhibit increases in DSB incidence similar to those found in replicative senescence, indicating that accumulating unrepairable DSB-containing lesions may be a casual factor in aging. The results demonstrate that mammalian cells aging in vitro and in vivo accumulate DSB-containing lesions that may play a causal role in aging.
"The International Consortium for Medical Care of Hibakusha and Radiation Life Science" International Symposium "Multidisciplinary Studies on Radiation Life Science"
  • Kazuhiro NAGAI, Ichiroh MATSUMARU, Takuya FUKUSHIMA, Yasushi MIYAZAKI, ...
    セッションID: COE2-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
     Medical management of the acute radiation injury might be an important area to which procedure of regeneration medicine and stem cell therapy could contribute, since organ stem cells might be targets of radiation injury. Furthermore, the recovery of blood flow is an important factor in the restoration of many tissues, therapeutic angiogenesis is assumed to become essential treatment in this field.
     We have started a project of therapeutic angiogenesis by implantation of autologous bone marrow mononuclear cells (BMMNCs) since 2003 in conformity to the protocol of TACT (Therapeutic Angiogenesis Using Cell Transplantation) trial, which treated patients with severe lower limb ischemia.
     Two cases of Buerger's disease were treated and their symptoms were improved within two to four weeks after the transplantation. Angiography indicated that there emerged new blood vessels in patient's treated limb. Augmentation of blood flow was suggested by thermography in one case. In both cases, any serious adverse symptoms due to this treatment were not observed.
     In the present trial, we could recognize effectiveness and safety of therapeutic angiogenesis. We need to improve the present procedure with introduction of evolving knowledge regarding mechanisms of physiological, pathological and utilizable therapeutic angiogenesis, and should develop the best strategy of tissue regeneration medicine for victims of radiation exposure.
  • Vladimir SAENKO, Hiroyuki NAMBA, Shunichi YAMASHITA
    セッションID: COE2-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    Radiation-induced thyroid cancer studies have been one of the focuses of the International Medical Cooperation and Epidemiology project conducted in frame of Nagasaki University’s 21st Century COE program.
    Papillary thyroid carcinoma (PTC) is a prototypic human malignancy known to develop with an increased rate in the individuals exposed to external or internal radiation, especially if exposure takes place at young age. Since the recognition of the phenomenon of radiation-induced thyroid cancer, extensive efforts have been made to elucidate its distinctive molecular features and to determine a “radiation signature”.
    Analysis of mutational frequencies of PTC-specific oncogenes (ret/PTC, TRK, BRAF, RAS and Gsa) or TP53 tumor suppressor demonstrated patients’ age-associated trend for some of them but no correlation with radiogenic nature of PTCs was found. To learn more about individual genetic characteristics of PTC patients, a comparative pilot study was performed to profile SNPs in several DNA damage response genes (ATM, MDM2 and TP53). Initial results demonstrated that some polymorphisms display a weak association with certain age groups of radiation-related or spontaneous PTCs.
    Results of molecular investigations as well as those of molecular epidemiology studies seeking to identify genes that modify susceptibility to radiation-induced thyroid carcinogenesis in humans will be discussed.
  • Eric WRIGHT
    セッションID: COE2-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    Despite considerable research effort, the mechanisms underlying the unequivocal association between accidental, occupational or therapeutic exposures to ionizing radiation and the development of leukaemia remain unknown. Conventionally, the responsible genetic lesions have been attributed to DNA damage in irradiated cells that has not been correctly restored by metabolic repair processes. However, many reports of, so called, non-(DNA)targeted effects of ionizing radiation in the unirradiated descendants of irradiated cells (radiation-induced genomic instability) or in cells that have communicated with irradiated cells (radiation-induced bystander effects) challenge this conventional paradigm. In the context of the haemopoietic system, the two phenomena are inter-linked and an instability phenotype need not necessarily be a reflection of genomically unstable cells but a reflection of responses to ongoing production of damaging bystander signals in the tissue microenvironment. Both the production of and the response to such signals are influenced by genetic factors and the cell interactions have properties in common with inflammatory mechanisms. Thus, superimposed on damage induced directly in target stem cells, cell interactions make important contributions to determining overall outcome after radiation exposure and have significant implications for the potential health consequences.
放射線生物学の古くて新しい魅力
  • 石井 敬一郎
    セッションID: S4-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
     従来放射線は、どのような低線量であっても細胞膜やDNAを損傷し、線量に比例した影響をもたらすと仮定されてきた。しかし1984年にOlivieriとWolffらは、弱いトリチウムチミジン処理を受けたヒトのリンパ球が、放射線に対する適応応答を示すことを発見した。放射線適応応答の実態解明は、放射線ホルミシス現象の理解や放射線のリスク評価の上で注目された。
     80年代後半は現象論的研究が進み、放射線適応応答は、X線やγ線によっても生じることがヒトリンパ球によるShadleyらの実験やV79細胞を用いたIkushimaの実験で示された。高エネルギーβ線でも同様であることが、Sankaranarayananらの実験で示された。このような細胞の適応応答は、放射線のみならずアルキル化剤やブレオマイシン、過酸化水素など、広範なストレスに対して生じることが分かったが、その誘導条件や誘導機構についての理解は進まなかった。
     90年代に入ると、ヒト正常線維芽細胞を用いたIshiiらの実験で放射線適応応答の誘導に細胞の膜機能やシグナルトランスダクションが関与することが示唆されるなど、誘導条件や機構に関する研究が盛んになった。この時期Yonezawaらは、マウスの個体にみられる放射線適応応答について、その誘導には著しい系統差があること、コンディショニングのための照射に線量率依存性があること、マウスの体について照射部位依存性があることなどを示し、その後Ojimaらとともに造血機能の関与を明らかにした。
    このように90年代後半になると、細胞や動物個体のレベルで放射線適応応答の誘導条件が明らかになり始めた。しかし詳しい誘導機構は、まだ分からなかった。特に、細胞の放射線適応応答が、動物個体の放射線適応応答とどのように関係するのかは、まったく未解明であった。この問題の解明が、今日の最も大きな課題と言えよう。
  • 勝村 庸介
    セッションID: S4-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    水の放射線分解では水和電子、OHラジカル等の中間活性種が生成する。これらは溶質と速やかに反応する事により、溶質の分解、生体の場合は生体構成高分子、DNAの損傷を引き起こす。従って、生体システムの放射線影響を議論するためには水の放射線分解機構についての理解は不可欠である。水の放射線分解は放射線のLETに大きく依存する事が知られており、これらはRBEやOERなどの生物効果の指標にも深く関わっている。
    本発表では、(1) 水の放射線分解の時間、空間挙動:水の分解は不均一で空間的には局所的に生じ、時間とともにダイナミックに進み、これが後続の反応に影響を与える。
    (2)中間化学種の反応挙動:中間活性種は溶質と反応し、溶質を分解する。パルスラジオリシスでその挙動の直接観測、生成物分析や競争反応を利用した解析が有効であること。(3)放射線のLETと放射線分解:放射線のLETが放射線分解の空間分布に大きく影響を与える事が、放射線反応のLET依存性がもたらされる。(4) 直接効果と間接効果:溶質濃度が高い場合の直接効果の寄与について濃厚水溶液系の放射線分解や生物系での最近の報告など、生物効果に密接な関係を持つと思われる項目に関係する最近放射線化学研究の成果を紹介したい。
  • 大塚 健介
    セッションID: S4-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    マウス個体に低線量放射線を照射することにより、後の大線量照射後の30日生存率が顕著に高まることが報告され、個体レベルで適応応答が誘導されることが知られている。また、その現象と高線量後に生き残った造血幹細胞数との間に相関が見られたため、マウス個体に誘導される適応応答は造血幹細胞の放射線抵抗性獲得がひとつの要因であると考えられる。
    このような応答は、事前照射に高線量率低線量を用いた場合で観察された現象であり、低線量率放射線を数十日に亘る長期間照射することによってマウス個体に適応応答が誘導されるかについては報告がない。そこで、我々はマウスに1 mGy/hr程度の低線量率放射線を飼育しながら種々の期間照射し、その後の高線量照射から生き残る造血幹細胞数を指標に適応応答の誘導を評価してきた。その結果、照射期間に依存して造血幹細胞の生存率が高まることを見出した。すなわち、低線量率の長期照射によってもマウス個体で適応応答が誘導されることを示している。
    我々の興味は、造血幹細胞が低線量率放射線によって放射線抵抗性を獲得する機構を明らかにすることであり、それによって事前照射だけで変動する指標を見出し、高線量の試験照射なくして適応応答を評価することにある。これまでに適応応答の指標として見てきた造血幹細胞は古典的に確立されたCFU-Sであるが、評価に試験照射が必要であった。一方で、細胞生物学的手法によってCFU-Sよりもより未熟なステージの細胞集団が同定されており、これは照射に依存せずに評価が可能である。そのような細胞集団を詳細に分類し、低線量率照射下における変動を調べることによって、今後の個体の適応応答研究の方向性に新しい道を拓くことができるものと期待される。
  • 小嶋 光明, 伴 信彦, 甲斐 倫明
    セッションID: S4-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    現在、私たちの健康につながる放射線の健康リスクは、適応応答やバイスタンダー効果などの発見によって、大きく変更すべきものかどうかのターニングポイントにある。適応応答は微量放射線は却って健康によいという説を、逆に、バイスタンダー効果は微量放射線は考えている以上にリスクが高いという説を支持する可能性をもった生物の放射線応答である。しかし、いずれにしても低線量の生物影響を明確にすることが困難であるため詳細は明らかではない。近年、放射線によって DNA 二重鎖切断が生じると毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝子である ATMがリン酸化し、DNA 二重鎖切断部位でフォーカスを形成する事が報告された。そこで、本研究ではこの特性に着目して、これまで解析が困難であった数 mGy の極めて低い線量域での生物影響を明確にする為の一環として、正常ヒト胎児肺線維芽細胞 (MRC-5) に 1.2~1000 mGy のX線を照射し、 1 ) 低線量域における線量と初期 DNA 損傷量の関係、2)初期 DNA 損傷の修復効率をそれぞれ解析した。1)1.2~1000 mGy 照射後のリン酸化 ATM のフォーカス数を調べた結果、 1.2~5 mGy の間で急激にリン酸化 ATM のフォーカス数が増加する傾向が観察された。現在、この現象にはバイスタンダー効果が関与しているのではないかと考え検討中である。2)照射後 24 時間までの間におけるリン酸化 ATM のフォーカス数の変化を調べた結果、5 mGy 以上で観察されたリン酸化 ATM のフォーカス数は照射後の時間に依存して減少していくことが分かった。しかし、1.2 mGyで観察されたフォーカス数は、照射直後と 24 時間後で差が見られなかった。この結果は 1.2 mGyによって生じた DNA 損傷は修復されていない可能性を示している。従って、1.2~5 mGy の間に DNA 損傷が認識・修復される為のしきい値が存在する可能性が考えられた。
  • 大町 康
    セッションID: S4-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    中性子線は低LET放射線と比べ生物影響が強く、その影響の程度にはエネルギー依存性があり、ヒトでのリスクを考える上で評価対象とする中性子線のエネルギー範囲は広い。リスクを考える際、生物学的評価値として生物学的効果比(RBE)が、防護量として放射線荷重係数(wR)がある。RBEとwRのレビュー(ICRP Pub.92)では、染色体異常、雄マウス寿命短縮、雄ラット腫瘍誘発に関するRBE値がwRや固形腫瘍名目リスク係数などの設定に利用されているとあるものの、実際の生物影響効果とどれほど整合性があるのかは依然として不明である。ICRP2005で提案されているwRは、中性子の生体における物理学的挙動が基本となっている。
    これまでの多くの中性子発がん実験は、動物系統や腫瘍の種類によって様々なRBEをとることを示しているが、エネルギー依存性に関する報告は極めて乏しい。原爆被爆者における中性子被曝線量はガンマ線にくらべるとかなり低いため、RBEの推定には大きな誤差を含む。また、中性子の生体相互作用は複雑であり、解剖学的特性を考慮した線量・エネルギーの評価がなされていないことも、実験動物からヒトへの外挿が困難となっている要因と思われる。動物実験におけるRBEをヒトにおける防護やリスク推定に反映するためには、中性子線のエネルギー沈着の動態と生体側の反応の双方から種差を検討するとともに、細胞傷害や突然変異に関するインビトロ実験などのメカニズム研究も必要である。さらに、これらのエネルギー依存性について理解する必要がある。
    放医研では、サイクロトロンならびに静電加速器由来の異なるエネルギーの速中性子線を用いて、発がんをはじめとした生物影響実験を進めている。これらの現状についても紹介し、中性子線の生物影響効果研究の今後について議論したい。
  • 小西 輝昭, 夏目 敏之, 安田 仲宏, 今関 等, 古澤 佳也, 佐藤 幸夫, 檜枝 光太郎
    セッションID: S4-6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    重粒子線の生物効果はイオン固有効果と二次電子効果に分けることができる。2次電子効果は通常の低LET放射線と本質的に同じ効果を示すはずである。そのため、イオン固有効果を見るためには、2次電子の寄与を極力少なくする特別な配慮が必要となる。重粒子イオンの飛跡末端部にLETが最大となるピーク(Braggピーク)があり、ここにおいて、2次電子のエネルギーはきわめて低くなっている。従って、ブラッグピーク近傍において最もイオン特異的な損傷が誘発されると期待される。放医研HIMAC内の中エネルギービーム(MEXP)コースに導入されるフラグメンテーションによる軽二次粒子を含まない6MeV/nの低エネルギーイオンを空気中に引き出して照射に用いた。CHO-K1、HeLa細胞に照射し、コロニー形成法を用いて生存率曲線を取得し、致死の作用断面積を求め、さらにGoodheadら(1980)の式を用いて1イオン飛跡あたりの平均の致死的な損傷数(l1)を算出した。次にγ-H2AXを免疫蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡で細胞核画像を取得して、細胞核をヒットするイオンが必ずDSBを誘発することを確認した。さらにパルスフィールドゲル電気泳動法を用いてイオンヒットによって誘発されるDSB数も算出した。LETが4760keV/umのFeイオンにおいても、1飛跡あたり数十ものDSBを誘発するが、l1は1.0未満であり、致死には最低でも2個以上のイオンが細胞核を通過する必要があった。
ワークショップ
生体と放射線・電磁波・超音波
  • 酒井 一夫
    セッションID: WS1-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    放射線生物学の歴史の中で、比較的最近まで研究者の関心は主として高線量の生物作用に向けられてきた。このことは基礎的な側面だけでなく、放射線の生物作用を利用する際にもっぱら高線量の細胞致死効果や突然変異誘発作用が利用されてきたことにも現れている。また、放射線のリスク評価においても、高線量の影響を外挿する形での評価が行われてきた。最近になって低線量放射線の生物作用の研究により、適応応答、バイスタンダー効果、ゲノム不安定性など、高線量率・高線量の場合からは予想のつかなかった現象が次々と明らかになった。これらの現象の背景には、生体の低線量放射線に対するさまざまな応答があると考えられ、基礎科学として興味深いだけでなく、放射線の利用やリスクに関する考え方にも大きなインパクトを与えるものである。ここでは、低線量・低線量率放射線の生物作用を概観し、その応用的側面おける意義について考察を加えたい.
  • 宮川 清
    セッションID: WS1-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    高線量被ばくに対する対応は線量に応じて大きく異なる。10 Gy以上ではいかに高度な現代医療を駆使しても救命は困難で、当面はDNA損傷に対する再生医学の発展に期待するしかない。一方それ以下の被ばくでは症例により治癒が可能となり、医療の質次第で救命率が変わるために、未来の医学はともかく現時点における最善の医療はどうあるべきかを検討する領域となる。そこで問題になるのは高線量被ばくが極めてまれであり現場から得られる経験が乏しいことであるが、一方で視点を変えると日常の医療において急性被ばくに近い状況である造血幹細胞移植からは学ぶべき点も多い。治療目的の全身照射では、分割照射とはいえ3日間で合計12 Gyの照射に加え致死量のDNA損傷薬剤が投与されるが、今や大学病院以外でも日常的に行なわれる医療になっている。造血幹細胞移植を安全に行うためには合併症の評価、特に心肺機能の評価や感染症をおこしやすい臓器の評価が重要である。したがって、放射線被ばくは予期ができない災害ととらえられ一般医療のような予防医学の概念は導入されていないが、急性被ばくの治癒率を高めるためには造血幹細胞移植に対する準備と同類のことを日常の医療でも心がける必要がある。それらは国民のレベルでは生活習慣病の予防や感染症の治療ということであり、現時点で10 Gy以下の急性被ばくから一人でも多く救命するためには日常の医療の標準を徹底することを放射線影響の立場からアピールする必要がある。
  • 宮越 順二
    セッションID: WS1-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    近年、電磁波曝露の人体への影響、特に発ガンに対する影響の有無について活発に議論されている。我々の生活環境には、家電製品の発生する電磁波はもちろんのこと、医療現場におけるMRIや電磁波加温装置、また、変電所や送電線下の交流磁場、さらに将来に実現性があるリニアモーターカーや超電導電磁推進船など、地球上の自然界に存在する以上の電磁波に曝される機会が増している。我々が現在から将来にかけて生活環境中曝される可能性が高いのは、医療の診断におけるMRIの強定常磁場や主として商用周波数領域における変動磁場、つまり極低周波 (ELF: Extremely Low Frequency) 変動磁場、そして最近の普及ぶりが目覚ましい携帯電話を代表とした高周波領域の電磁波(主として我が国では900MHzおよび1.5GHz)である。電磁波の生体影響を解明する上での生物学的研究結果は、必ずしも一致した結果が得られているわけではない。細胞レベルの評価指標としては、細胞増殖、DNA合成、染色体異常、姉妹染色分体異常、微小核形成、DNA鎖切断、遺伝子発現、シグナル伝達、イオンチャンネル、突然変異、トランスフォーメーション、細胞分化誘導、細胞周期、アポトーシスなどが検討されている。本ワークショップでは、定常磁場、低周波ならびに高周波電磁場について、細胞レベルにおける影響評価や医療への応用についての現状ならびに国際動向について紹介する。
  • 重光 司
    セッションID: WS1-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    電気刺激を臨床に応用しようとする研究は、1950年代の保田等による骨の圧電気現象の発見と微小電流による電気刺激が仮骨を形成させるという報告に端を発しており、電気を用いた治療が整形外科における一手段として定着するようになってきた。一方、1979年に疫学研究により磁界曝露と小児白血病の発症との間に関連性があることが報告された。このような経緯から電磁気現象の生体に及ぼす影響が有益および有害の両面から注目された。近年は、低周波電磁場を中心とした変動磁場ならびに直流磁界の安全性に社会的な関心が集まり、一方では磁場の有効利用の立場から医学への応用についての研究がなされるようになってきた。電磁場の安全性については、問題の発端に関連する発がん実験を始めとして、生殖・発育、行動・感知、神経内分泌等に対する影響を明らかにするため、マウス、ラット、ハムスター、ヒヒならびヒツジなどの動物を用いた研究が行われている。ヒトを対象にした疫学研究や直接曝露実験も行われてきた。動物実験からは安全性、ヒトの健康に有害な影響を及ぼす結果は得られていないが、国際がん研究機関(IARC)は、疫学研究に着目して、「低周波磁場はヒトに対して発がん性を持つ可能性がある(グループ2B)」と結論付けた。一方、低周波電場、直流電磁場については発がんとの関連性はないとされた。 臨床応用としての電気刺激は、低周波領域の電磁場が使われており骨の治癒に対する多くの報告がなされており、骨組織以外の治癒促進を狙った電磁場の応用についても基礎的な研究が行われている。しかし、明確な作用メカニズムは確立されていない。電磁場に関する研究は、安全性および医療への応用を意図した両面からの研究がさらに進められることが期待される分野である。
  • 近藤 隆
    セッションID: WS1-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    超音波画像診断は臨床の各分野で幅広く利用されている。また、近年、微小気泡を利用した超音波造影法も注目されている。超音波の生体作用は1)熱的作用と2)非熱的キャビテーション作用、3)非熱的非キャビテーション作用に分類される。超音波と細胞あるいは生体との相互作用を考えるとき、より重要なのは2)における微小気泡の役割である。一定の強度以上の超音波条件では、微小気泡は収縮と膨張を繰り返した後に崩壊する。この時、数百気圧と数千度となり、微視的な極限環境を作り出し、水分子を熱分解する。in vitroの実験系における、このフリーラジカル産生は、放射線類似作用を呈する。微小気泡の振動は、細胞膜に影響し、透過性を亢進する。また、ミトコンドリアに作用し、遺伝子制御された細胞死であるアポトーシスを誘発する。興味あることに、微小気泡の振動と崩壊という、機械的エネルギーは遺伝子発現を変化させることが判明した。最近、当教室で得られた知見を紹介するとともに、安全性の観点から、放射線と超音波の生物作用の比較について述べる。
  • 立花 克郎
    セッションID: WS1-6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    近年、超音波エネルギーを体外から集束させ、数ミリ単位の正確さで患部を熱でAblateできる強力集束超音波治療(High Intensity Focused Ultrasound Therapy; HIFU)が前立腺癌などで実用化されている。一方、薬物治療と超音波エネルギーを併用する新しい試みがなされ、薬物の効果促進作用が多く報告されている。特に注目されているのは超音波の血栓溶解療法、癌治療への応用である。また、超音波造影剤(マイクロバブル)利用することで細胞内へ遺伝子を容易に導入できることも発見され、様々な分野における超音波とマイクロバブルの組み合わせが期待されている。治療用超音波の照射によってマイクロバブルの崩壊を時間的、空間的に制御できるので、薬物や遺伝子の局所投与が可能となる。
    超音波エネルギーによる薬物透過促進メカニズムはまだ完全には解明されていないが、超音波で発生する気泡の複雑な物理運動は組織に何らかの影響を及ぼし、薬物透過性の促進をもたらしていると考えられる。生体組織に超音波が直接与える影響、および超音波で発生するキャビテーションなど物理作用で薬物効果の促進が生ずる。
    in vitro における白血病細胞株(HL-60)へ抗癌剤cytosine arabinoside (Ara-C)を添加し超音波照射群と非照射群で長期的な細胞生存率を比較したところ、両群間で有意な差を認めた。このことは超音波によるAra-Cの細胞取り込み量が促進されたことを意味する。また走査型電子顕微鏡による細胞表面の観察では、微細な膜構造変化が認められ、超音波照射が癌細胞の薬物吸収に影響したと考えられる。超音波によって細胞膜に”孔”または”チャンネル”が一時的に開き、その後また閉じたことが示唆された。この現象をソノポレーション(SONOPORATION)と名づけられ、分子量の大きい物質を一時的に細胞内に取り込ませる事が可能であり、様々な疾患への応用が期待できる。
高LET放射線によるDNA損傷と細胞応答
  • 寺東 宏明, 田中 瑠理, 中新井 佑介, 平山 亮一, 古澤 佳也, 井出 博
    セッションID: WS2-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    高LET放射線の高いRBEには、DNAに生じる局所多重損傷(クラスターDNA損傷)が関与していると考えられている。近年、多数のDNA修復酵素が単離され、DNA二重鎖切断(DSB)以外のクラスターDNA損傷、例えば塩基損傷を含有するクラスターDNA損傷(クラスター塩基損傷)を解析することが可能になってきた。
    高LET放射線の生物影響におけるクラスター塩基損傷の関与を検討するため、重粒子イオン線によって標的DNA中に生じるクラスター塩基損傷発生数を比較検討した。標的DNA分子には、pDEL19プラスミドDNA(~4.6 kbp)およびラムダファージDNA(~46 kbp)を用い、10 mM Tris-HCl (pH7.5)溶液中で、それぞれガンマ線(0.2 keV/μm)、炭素イオン線(13 keV/μm)、鉄イオン線(200 keV/μm)照射を行った。酸化ピリミジン損傷の検出には大腸菌エンドヌクレアーゼIII、酸化プリン損傷に対しては大腸菌FpgまたはヒトOGG1を用い、ゲル電気泳動およびアルデヒドリアクティブプローブ法により離散損傷およびクラスター損傷数を定量した。その結果、DNA種に関わらず、LETの増加に反比例して離散型鎖切断(一本鎖切断:SSB)、DSB共に発生数の減少傾向を示した。同様に、塩基損傷に関してもその局在状態、離散型かクラスター型かに関わらず、LETの増加に反比例した減少傾向がみられた。この結果は、高LET 放射線の高いRBEがLET依存的なクラスター損傷数増加に起因するという単純な構図ではなく、直接には大きな生物影響を与えないクラスター塩基損傷の細胞内プロセスによる致死的損傷への変換と、クラスター塩基損傷の微細構造がLET により異なり、それが細胞内プロセス最終産物に違いを与えていることが高LET放射線の生物影響表出に重要であることを示唆している。
  • 鹿園 直哉
    セッションID: WS2-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    クラスターDNA損傷は、電離放射線によってDNAへリックス二回転中に二つ以上の損傷が生じるものとして定義される。我々は、その生物効果に関してはいまだほとんど不明である、二本鎖切断以外(non-DSB type)のクラスターDNA損傷に注目して研究を進めている。放射線誘発されるクラスターDNA損傷がどの程度、また、どのように生物影響を及ぼすのかを調べるため、合成損傷(二つの塩基損傷を近接して人工的に配置させたもの)による細胞内での変異生成を調べるアプローチを試みている。この手法の利点として、放射線によって生じる多様な損傷のうち、特定の損傷の効果だけに限定して調べられる点があげられる。実際には塩基損傷として、8-oxo-7,8-dihydroguanine (8-oxoG) とdihydrothymine (DHT)を用い、大腸菌野生株もしくはグリコシラーゼ欠損変異株(fpg, mutY, nth, fpgmutY, fpgmutYnth)に導入した。誘発突然変異は8-oxoGが制限酵素BsmAIの認識配列内にあることを利用して、制限酵素で切断されない断片として検出した。その結果、8-oxoG単独に対し、8-oxoGがDHTとクラスター化することで突然変異頻度は実際に高まることが見いだされた。突然変異頻度はfpg, nthにおいては野生型と同程度と低かったが、mutYにおいては非常に高くなり、fpgmutYでは、変異頻度が35%前後までさらに高まることが明らかとなった。これらの結果から、(1)損傷のクラスター化によりFpg活性は阻害されること(2) DHT鎖の複製の阻害が変異頻度の上昇に関与すること(3) 8-oxoGとDHTのクラスター損傷の変異誘発抑制にはMutYが重要な役割を果たすこと、が示唆され、クラスター損傷がもつ高い変異誘発効果及びその変異誘発機構に対する手がかりが示されつつある。
  • 平山 亮一, 松本 孔貴, 渡邉 雅彦, 野口 実穂, 扶川 武志, 古澤 佳也, 安藤 興一, 岡安 隆一
    セッションID: WS2-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】酸素存在下でX線照射された培養細胞は非酸素存在下で照射された細胞に比べ感受性が高いことは酸素効果として古くから知られている。一方、重粒子線のような高LET放射線の場合には酸素効果は小さくなり、酸素による放射線増感効果は小さいと言える。我々は細胞致死ならびにDNA二本鎖切断における初期収量と酸素の関係を明らかにすることを目的とした。また、DNA二本鎖切断を培養細胞内で修復させることにより大気下ならびに低酸素下で生成したDNA二本鎖切断の質的違いについて考察した。【方法】200kVp X線と放医研HIMACから供給された炭素線(LET: ∼ 80 keV/μm)用いてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を大気下ならびに低酸素下で照射した。DNA二本鎖切断の検出は定電圧電気泳動法(Static-Field Gel Electrophoresis)を用いて定量・解析を行った。DNA二本鎖切断の初期損傷の定量は照射時より4℃下で行い、残存損傷は大気下37℃で15分_から_3時間の修復処理後に定量した。【結果および考察】炭素線では酸素の存在により細胞致死効果が1.9倍も高まり、高LET放射線でも酸素効果は観察された(X線では2.8倍)。また、DNA損傷の初期収量は酸素の存在により2.1倍も増大した(X線では5.8倍)。修復15分∼3時間後の残存DNA損傷比は1.9 ∼ 2.6(平均2.3 ± 0.2)であり、初期DNA損傷比とほとんど変わらなかった。修復3時間におけるDNA損傷修復率は大気下照射ならびに低酸素下照射の場合それぞれ80, 79%であった(X線ではそれぞれ97, 95%)。これらの結果より、炭素線照射時の酸素影響として1)DNA損傷の初期収量の増大が認められ、2)修復による残存DNA損傷比の変化が少ないことからDNA損傷の質的違いが少ない、ことが示唆された。
  • 和田 成一, 松本 義久, 大戸 貴代, 浜田 信行, 原 孝光, 舟山 知夫, 坂下 哲哉, 深本 花菜, 柿崎 竹彦, 鈴木 芳代, 細 ...
    セッションID: WS2-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    高LET重イオン照射による細胞致死効果は低LET放射線照射よりも高いことが広く知られている。この高い細胞致死効果の原因のひとつは高LET 重イオン照射による修復困難な、または修復不可能なDNA損傷によると考えられている。しかし、この損傷の修復反応や修復過程のどの段階で修復が阻害されるかなど未だ詳細には解明されていない。哺乳動物細胞のDNA2本鎖切断修復は主に非相同性末端結合であり、この修復機構ではKu70/80がDNA損傷を認識することによって修復が開始すると考えられている。そこで、高LET 重イオンによるDNA損傷に対する修復過程をKu80の反応を指標として調べた。細胞は、 Ku80の変異したxrs5細胞を形質転換し、GFPを融合したKu80を発現する細胞(xrs5-GFP-Ku80)とGFPのみを発現する細胞(xrs5-GFP)を用いた。照射は原子力機構・高崎のTIARAにおいて高LETのArイオン(LET=1610 keV/μm)を照射した。xrs5-GFP-Ku80とxrs5-GFP細胞の生存曲線はほぼ同程度の感受性が観察され、この結果はArイオン照射によって生じたDNA損傷はKu80によって修復困難であることを示唆している。DNA損傷に対するKu80の反応を調べるためγH2AXと GFPシグナルを観察したとき、照射10分後では共局在するシグナルは観察されたが、照射20分後にはGFPシグナルが不明瞭になり共局在するシグナルは観察されなかった。この結果からKuは高LET重イオン照射によるDNA損傷を認識するが、修復出来ずに損傷部位から解離すると推察された。このように高LET重イオンよるDNA損傷の修復困難なメカニズムを解明することによっても高LET 重イオンによる新たな生物効果の知見が得られると考えられる。
  • 冨田 雅典, 松本 義久, 細井 義夫, 古澤 佳也, 矢野 安重, 酒井 一夫
    セッションID: WS2-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)は、Ku70、Ku86、触媒サブユニットDNA-PKcsからなる複合体であり、DNA2本鎖切断(DSB)末端に結合して活性化し、非相同末端結合(NHEJ)によるDSB修復に必須であることが知られている。重イオン線は、複数のDNA切断を伴う重篤なクラスターDNA損傷を生じることが知られている。クラスターDNA損傷の重篤度がLETに依存することから、高い細胞致死効率をもたらす主な要因と考えられている。本研究では、細胞の重イオン線感受性におけるDNA-PKの役割を検討した。重イオン線の照射は、理化学研究所のリングサイクロトロンおよび放射線医学総合研究所のHIMACを用いて行った。
    重イオン線に対する細胞致死効率を、DNA-PKcs欠損細胞M059Jとコントロール細胞M059Kを用いて検討したところ、M059K細胞では、X線と比較して最大2.7倍の致死効果が得られたが、M059J細胞では1.9倍となった。程度に違いがあるものの、同様の結果は、wortmannin等の活性阻害剤を添加したHeLa細胞等でも得られた。次に、DNA-PKcsのリン酸化部位に対する抗体を用い、重イオン線照射後のフォーカス形成を観察したところ、重イオン線が細胞核を通過した飛跡に沿って局在した。さらに、重イオン線照射後のXRCC4のリン酸化を検討したところ、LETが高くなるに従いリン酸化レベルは高くなるが、LETに関係なく照射後30分から1時間でピークとなった後に低下した。以上の結果から、DNA-PKは、重イオン線によって生じたDSBに対しても速やかに認識して活性化するが、損傷が重篤なために、修復精度が低下し、致死効率が高くなると示唆された。現在、重イオン線照射後のDNA-PKcsおよびXRCC4のリン酸化について、さらに検討を進めている。
  • 岡安 隆一, 岡部 篤史, 高倉 かほる
    セッションID: WS2-6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    放射線損傷でもっとも重要とされるDNAの二重鎖切断(double strand break (DSB))の修復機構のうち非相同末端結合non homologous end joining (NHEJ) 過程に関与する蛋白として、Ku70/Ku80, DNA-PKcs, Ligase IV/XRCC4, Artemis 等が明らかになっている。しかしながら、DNA損傷認識に重要なATMのNHEJ 機構での直接の働きは今一歩判りかねるところがある。最近あるグループではATMが、いわゆる複雑な(dirty DSB) タイプのDSBに関与するという報告があり注目されている。われわれのグループでは人細胞(confluent状態)に重粒子線照射を行うことによって、この複雑なタイプのDSBを創出し、主に免疫染色法を用いてATM及びDNA-PKcs等のリン酸化過程を研究しそれらの役割を検討している。
    ヒト正常細胞ではDSBの指標であるガンマH2AXフォーカスはX線でも重粒子線でも同じように出現するが、炭素線 (290 MeV/n, 70keV/µm)、鉄線 (500 MeV/n, 200keV/µm)では脱リン酸化過程にかなりの遅れが見られた。他方AT homozygoteの細胞を用いると、重粒子線照射後、はじめのガンマH2AX フォーカスの出現が1_-_2時間ほど遅れることがわかった。さらに興味あることはAT細胞では、われわれが先に示したようなDNA-PKcsのリン酸化過程がX線照射後には観察されるが、炭素線、鉄線照射後にはうまく観察されなかった。また正常細胞におけるATM蛋白のリン酸化は、特に高LETの鉄線 (200kV/µm)でかなりの遅延が観察された。これらのことから、重粒子線の作るDSBはX線と違い、照射後の修復蛋白にかなりの影響を及ぼすこと、またATMがNHEJにおいても大切な役割を演じており、特に複雑なDSBの修復に肝要であることが予想される。
  • 高橋 昭久, 大西 健, 大西 武雄
    セッションID: WS2-7
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    高エネルギー重粒子線の飛跡に集まるDSB損傷認識タンパク質の挙動を明らかにするため、我々は重粒子線(Fe, 500MeV/u, 200keV/μm)照射後のこれらのタンパク質のフォーカス形成とリン酸化を免疫化学染色法とフローサイトメトリー法を用いて解析した。リン酸化ヒストンH2AXのフォーカス形成は放射線によるDSB損傷部位で起こることがよく知られているので、我々は線量依存的な飛跡の検出に用いた。その結果、理論値とよく一致して線量と飛跡の数が一致していた。また、X線と同様に重粒子線の線量が増えるのに従ってヒストンH2AXのリン酸化量は増加したが、X線に比べて重粒子線照射後のヒストンH2AXのリン酸化残存量が多いことを明らかにした。このことは重粒子線による損傷が修復しにくいことを示しているのかも知れない。さらに、我々はDSB損傷認識タンパク質(特に放射線照射後にリン酸化したATMセリン1981、ヒストンH2AXセリン139、Nbs1セリン343、Chk2スレオニン68、DNA-PKcsスレオニン2609)の重粒子線照射後の挙動を調べ、リン酸化ヒストンH2AXのフォーカス形成部位とよく一致していることを明らかにした。高エネルギー・高LETの重粒子線はX線やγ線などの低LET放射線やその他の化学物質などと異なり、その飛跡に沿ってDSBを生成することから、DSB認識機構の解明にとって、有用なツールと考える。
損傷ヌクレオチドによる遺伝情報不安定性誘発とその制御
  • 紙谷 浩之
    セッションID: WS3-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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     酸化的 DNA 損傷に加えて酸化的損傷 DNA 前駆体も放射線による変異誘発に大きく寄与していると考えられる。同様に RNA 前駆体の酸化も DNA にコードされた遺伝情報を撹乱する可能性がある [1]。我々は、酸化的損傷 RNA 前駆体が転写産物に与える影響を試験管内転写反応を用いて解析した。
     モデル RNA ポリメラーゼとして T7 RNA ポリメラーゼを、酸化的損傷 RNA 前駆体として 8-hydroxy-GTP(8-OH-GTP)と 2-hydroxy-ATP(2-OH-ATP)を用いた。完全鎖長に達した転写産物量とcDNAに変換後の配列を分析したところ、(1) 酸化的損傷 RNA 前駆体の存在により転写産物量が減少すること、(2) 8-OH-GTPによりT→G(U→G)及びT→C(U→C)変異が誘発されること、(3) 2-OH-ATP によりT→C(U→C)変異が誘発されることを見出した。
     以上の結果は、放射線による酸化的損傷 RNA 前駆体の生成が転写に対して量的・質的に影響を与えて遺伝情報を撹乱している可能性を示唆している。
    [1] Taddei et al. Science 278, 128 (1997)
  • 清水 雅富, 山田 雅巳, グルーズ ピーター, 布柴 達男, 徐 岩, 益谷 央豪, 碓井 之雄, 杉山 弘, 花岡 文雄, 能美 健彦
    セッションID: WS3-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    YファミリーDNAポリメラーゼは細菌からヒトまで広く生物界に存在し、その特徴は鋳型DNA上の損傷部位(例えばピリミジン2量体)を乗り越えて複製を行う点にある。一方、活性酸素などによる損傷は、DNA鎖上ばかりでなく、その前駆体となるヌクレオチドプール中のdNTPにも起こる。このdNTPの酸化は、自然突然変異や発がんの有力な原因と考えられている。ヌクレオチドプールの酸化により生ずる8-OH-dGTPと2-OH-dATPが、YファミリーDNAポリメラーゼによりどのようにDNA中に取り込まれるかを検討した。
    我々はこれまでに、ヒトのYファミリーDNAポリメラーゼの一つであるDNAポリメラーゼη(pol η)が、8-OH-dGTPを鋳型鎖のAの向かいに取り込み、2-OH-dATPをTとGの向かいに取り込むことを報告している。今回、さらに詳細な検討を行うために(i) pol ηの反応速度論的解析と(ii)大腸菌を使ったin vivoの実験を行った。(i) pol ηがAの向かい側に8-OH-dGTPを取り込む効率(kcat/Km)は、正常なdTTPを取り込む効率の約60%であった。またpol ηは2-OH-dATPをTの向かい側だけでなくCあるいはGの向かい側にも取り込んだ。(ii) Superoxide dismutaseをコードするsodAsodB両遺伝子と、鉄の取り込みのregulatorをコードするfur遺伝子を欠損した大腸菌株の高い自然突然変異はDNA損傷ではなく酸化dNTPに基づくが、この変異は大腸菌のYファミリーDNAポリメラーゼをコードしているdinBとumuDCのどちらか一方あるいは両方を欠損させると80%以上消失した。
    以上の結果は、YファミリーDNAポリメラーゼが、鋳型DNA上の損傷部位を乗り越えて複製を行う以外に、酸化dNTPをDNA中に取り込むことで突然変異を促進する可能性を示唆している。
  • 佐藤 和哉, 河井 一明, 葛西 宏, 原島 秀吉, 紙谷 浩之
    セッションID: WS3-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    【目的】 放射線等が原因でDNA中に生じる8-ヒドロキシグアニンは、C だけでなくAとも誤った塩基対を形成し、高い変異原性を有する。一方、そのDNA前駆体である8-ヒドロキシ-dGTP(8-OH-dGTP)はDNAポリメラーゼによってAに対して誤って取り込まれることでA:T→C:Gトランスバージョンを引き起こすことがin vitroにおいて示されている。そこで本研究では、生細胞に直接8-OH-dGTPを導入することにより、その変異誘発について調べた。

    【方法】 COS-7細胞にSV40 oriおよび標的遺伝子supFを有するプラスミドを8-OH-dGTPと共にLipofectamine試薬を用いて導入した。48 hr後にSV40 T Antigen依存的に複製されたDNAを回収して大腸菌に導入し、supF変異体率の測定およびシーケンシングによる変異スペクトルの解析を行った。

    【結果】 Totalの変異体率は8-OH-dGTPおよびコントロールとして同量のdGTPを導入した場合で差はみられなかった(3.91および3.89×10-5)。しかしながら生じた変異について解析した結果、欠失および挿入変異の割合はdGTPでは66%であったのに対し8-OH-dGTPを導入した場合では22%にすぎなかった。A:T→C:GトランスバージョンはdGTP導入では検出されなかった(0/174: <0.6%)のに対し、8-OH-dGTP導入の場合は58%(83/144)を占めた。

    【結論】 本研究により、培養細胞に三リン酸体の損傷ヌクレオチドを直接導入し、変異の誘発を解析する系が確立した。8-OH-dGTPの導入により、COS-7細胞においてA:T→C:Gトランスバージョンが高頻度に誘発されることが示された。したがって、生体内においても生成した8-OH-dGTPは変異の誘発に関与すると考えられる。

  • 堀 美香, 石黒 智恵子, 中川 紀子, 倉光 成紀, 山本 和生, 葛西 宏, 原島 秀吉, 紙谷 浩之
    セッションID: WS3-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    放射線によって生成した活性酸素によりDNA 前駆体 (ヌクレオチド) に化学的修飾が生じ、損傷 DNA 前駆体が生じる。損傷 DNA 前駆体は DNA 中に取り込まれた後、DNA 修復酵素により除去される可能性が考えられる。本研究では、DNA 修復酵素の一つであるヌクレオチド除去修復酵素 UvrABC が、in vivo において酸化ヌクレオチドにより誘発される変異の抑制に関与しているのか検討した。
    uvrAuvrB 欠損大腸菌に酸化ヌクレオチド 8-hydroxy-dGTP、2-hydroxy-dATP を直接添加して取り込ませ、抗生物質リファンピシン耐性獲得を指標として、rpoB 変異体率を算出した。uvrAuvrB 欠損大腸菌においては、野生型と異なり、変異体率の上昇が観察されなかった。次に、mutT/uvrAmutT/uvrB 二重欠損大腸菌に過酸化水素による酸化ストレスを負荷し、変異体率を算出した。mutT 欠損大腸菌においては過酸化水素により変異体率は上昇したが、二重欠損大腸菌においてその上昇は 1/2 から 1/3 に低下した。以上のことから、UvrA や UvrB 蛋白質が酸化ヌクレオチドによる変異の抑制ではなく、むしろ固定に関与している可能性が示唆された。そこで、UvrABC 蛋白質が酸化ヌクレオチドの取り込まれた損傷鎖ではなく、その相補鎖を切断して変異を固定しているという仮説をたて、精製 Thermus thermophilus HB8 UvrABC 蛋白質を用いて8-hydroxyguanine や 2-hydroxyadenine を含む DNA の切断活性を評価したが、切断活性は観察されなかった。UvrABC 蛋白質は別のメカニズムにより固定していると考えられる。
  • 布柴 達男
    セッションID: WS3-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    生体内因子による突然変異はDNA損傷だけでなく損傷ヌクレオチドにも起因する。8-oxodGTPや2-OHdATPなどの酸化ヌクレオチドは強い突然変異誘発性をもつため,生物はそれらに対する浄化機構をもつ。大腸菌のMutTやバックアップ機能を担うRibAやマウス,ヒトのMTH1(NUDT1)などが知られている。また損傷ヌクレオチドは,酸化によるものばかりではなく,細胞内の生理的条件で生じる脱アミノ化を受けたdUTP,dITP,dXTPなどの損傷ヌクレオチドも重要であると考えられる。事実dUTPの分解酵素が既に,大腸菌,酵母,マウス,ヒトで確認されている。しかしdITPやdXTPについては,DNA中の塩基の脱アミノ化が自然突然変異の原因となることが知られているものの,脱アミノ化ヌクレオチドのDNAへの取り込みや自然突然変異への寄与については不明である。
     我々は酵母のヌクレオチド損傷浄化機構とそのゲノム安定化への寄与を明らかにする目的で,8-oxodGTPaseとITPaseの機能的ホモログを検索し,前者としてYLR151c(PCD1)を,後者としてHAM1を分離同定した。Ylr151c(Pcd1)については,1) Ylr151cタンパク質の8-oxodGTPと2-OHdATPに対するpyrophosphatase活性,2)大腸菌MutT欠損の相補, 3)酵母破壊株でのmutator phenotypeを,一方Ham1については,1) Ham1タンパク質のdITPに対するpyrophosphatase活性, 2) 2倍体酵母でのHAM1破壊による高頻度の遺伝子転換/相同染色体間交叉誘発を確認した。以上の結果は,酵母において,生理条件での酸化や脱アミノ化によるヌクレオチド損傷が生じることやその浄化機構がゲノム安定化に寄与することを示唆している。
  • 中津 可道
    セッションID: WS3-6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    DNAやその基質であるヌクレオチドは、環境中に存在する種々の化学物質や電離放射線あるいは生体内での通常の代謝過程で生じる活性酸素により絶えず損傷を受けている。これらのDNA・基質ヌクレオチドの酸化損傷は、複製エラーと共に自然突然変異を引き起こす主な原因と考えられている。ヌクレオチドの酸化により生じる8-oxo-dGTPは、DNA複製の際に鋳型鎖上のシトシンだけでなくアデニンに対しても同じ効率で取り込まれる。鋳型鎖のアデニンと誤対合した8-oxoguanineは、次の複製でシトシンと対合しA:T→C:Gトランスバージョンを、鋳型のシトシンと対合した8-oxoguanineは2回の複製を経てG:C→T:Aトランスバージョンを引き起こす。生物は酸化ヌクレオチドによる突然変異の生起を回避するための防御機構を備えている。大腸菌MutT蛋白質は、8-oxo-dGTPとその前駆体である8-oxo-dGDPを8-oxo-dGMPに加水分解する酵素活性をもち、変異原性ヌクレオチドがDNA複製過程で取り込まれる前に分解することにより突然変異を抑制している。哺乳動物にはMutT蛋白質と同様な酵素活性を持つNUDT蛋白質が複数存在する。MTH1(NUDT1), NUDT15は、8-oxo-dGTPを、NUDT5は8-oxo-dGDPをそれぞれ8-oxo-dGMPに加水分解する。哺乳動物では、これらの酵素の働きによりヌクレオチドの酸化により生起する突然変異を抑制していると考えられる。ここでは、MTH1欠損マウスを用いた研究成果を紹介し、その欠損が突然変異の生起や生理状態での発がんに及ぼす影響について考察すると共に、哺乳動物のヌクレオチドレベルでの酸化損傷排除機構について議論する。
  • 中別府 雄作
    セッションID: WS3-7
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    ゲノムDNAへの修飾・損傷塩基の蓄積は、遺伝情報の変化とその結果生じる突然変異やプログラム細胞死をひきおこす大きな原因である。ゲノムDNA中の損傷塩基は2つの独立した経路で生じると考えられている:ひとつはDNA中の正常な塩基の直接の修飾によるものであり、もうひとつはヌクレオチドプール中で生じた修飾ヌクレオチドが取込まれる場合である。ヌクレオチドプール中のdGTPが自然に酸化されて生じる8-oxo-dGTPは自然突然変異の主要な原因のひとつである。8-oxo-dGTPはDNA複製の過程で鋳型鎖中のアデニンあるいはシトシンの対合して新生鎖に取込まれる。我々は、8-oxo-dGTPが大腸菌からヒトまでMutTファミリーの蛋白質によって加水分解され、その結果自然突然変異頻度が低く維持されていることを証明してきた。近年、ゲノムプロジェクトの進展から異なる基質特異性をもつ多くのMutT類似蛋白質の存在が報告され,一方で蛋白質の構造解析に基づいたアプローチから新しいヌクレオチド分解酵素も同定されている。その1つが(d)ITPや(d)XTPなど、脱アミノ化されたプリンヌクレオシド三リン酸を加水分解するイノシン三リン酸ピロフォスファターゼ(ITPase)である。大腸菌ではITPase蛋白質をコードするrdgB遺伝子の変異体は、単独では生存可能であるがrecA変異あるいはrecBC変異と同時に存在すると致死性を示す。すなわち、ヌクレオチドプール中に蓄積したdITPやdXTPは、組換え機能を欠く状況でDNA中に取り込まれると細胞毒性を示すと考えられる。
     本ワークショップでは、ヒトやマウスのMutTホモログ(MMTH1)とITPaseホモログ(ITPA)の欠損がもたらす分子病態について細胞レベルから個体レベルの解析結果について紹介し、ヌクレオチドプールの浄化機構の重要性について議論したい。
紫外線生物影響研究の新たな展開
  • 松永 司
    セッションID: WS4-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    ヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair; NER)は、DNA二重らせん構造に歪みを生ずるDNA損傷に働くDNA修復機構であり、その基本反応は大腸菌からヒトまで保存されている。NERは、紫外線で誘発されるシクロブタン型ピリミジンダイマーや(6-4)光産物、かさ高い化学物質の塩基付加体などを基質とするが、この機構の先天的異常は劣性遺伝疾患・色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum)を発症し、太陽光露光部で高頻度に皮膚癌を発生させる。NER反応は、DNA損傷の認識、損傷付近の部分的DNA巻き戻し、DNAの2ヶ所切断、損傷を含むDNA断片の除去、修復合成、再結合と多段階のステップから成り、全行程で約30種ものポリペプチドが関与する。この複雑な反応も、すでに試験管内再構成系が確立されており、基本メカニズムがかなり明らかになっている。近年は、このNER反応の細胞内における調節機構に注目が移っており、修復促進因子の同定、クロマチンレベルでの調節、修復因子の転写および翻訳後修飾による調節など、様々な興味ある知見が得られている。
    我々は、DNA損傷に対して極めて高い親和性を示すDDB(damaged DNA-binding protein)が損傷(特にシクロブタン型ピリミジンダイマー)認識に関与し、NER反応を促進することを示してきた。また、DDBに含まれる2つのサブユニットの機能についても詳細に解析し、それぞれ独自の機能も明らかにされつつある。一方、NERとシグナリング経路とのクロストークも最近のトピックスであり、我々は休止期のヒト細胞で起こる不完全なNER反応がヒストンH2AXリン酸化経路を活性化することを見出し、NERの品質管理機構として注目している。本シンポジウムでは、NERの調節機構に関する最近の我々の成果を報告し、NERの品質管理について考えてみたい。
  • 森 俊雄
    セッションID: WS4-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    色素性乾皮症A群およびコケイン症候群はヌクレオチド除去修復 (NER) 機構に欠陥をもつ常染色体劣性遺伝疾患であり、紫外線損傷のピリミジン二量体や一部の酸化的損傷などのDNA損傷に対し修復異常を示す。これらの疾患に共通する特徴として、日光過敏症および神経障害があげられるが、後者の研究が大きく遅れている。頭蓋骨で覆われた脳に太陽紫外線が到達することはないが、酸素代謝が盛んであることから酸化的DNA 損傷が誘発され、その中にはNERの基質となるCyclopurineも含まれると考えられる。それ故、NERに遺伝的欠陥があれば、損傷の異常蓄積により、神経系細胞死を原因とする進行性の神経障害が生じると推測される。そこで本実験では、中枢神経系細胞が保持する本来のNER能力を明らかにすることを試みた。妊娠17日目のラット胎児脳より培養6日目において全体の25 %がMAP2 陽性のニューロン、25 %がGFAP 陽性のアストロサイトからなる混合培養系を確立した。また、対照細胞として、同じ胎児腹部から線維芽細胞を樹立した。ニューロンは樹状突起をもち増殖能は見られないが、アストロサイトは保持していた。混合培養された神経系細胞のNER活性は、細胞マーカー染色後、 (6-4) 型ダイマーの修復動態を蛍光免疫測定して求めた。その結果、ニューロンおよびアストロサイトはNER 活性を保持しているが、その活性レベルは線維芽細胞に比べ有意に低いことがわかった。また、その低さはTFIIH発現量の半減を原因とするNER欠損ヒト細胞 (硫黄欠乏性毛髪発育異常症; TTD2VI) の場合に匹敵した。さらに、局所紫外線照射後におけるNER蛋白(PCNA)の蛍光免疫染色により、ニューロンおよびアストロサイトでは線維芽細胞に比べて明らかに損傷部位に集積するPCNAの量が少ないことがわかった。以上の結果より、中枢神経系を構成する主要細胞はNER蛋白発現量が低いために線維芽細胞に比べNER能力が低下していることが示唆された。
  • 池畑 広伸, 小野 哲也
    セッションID: WS4-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】紫外線(UV)はDNAにシクロブタン型ピリミジンダイマーや6-4型光産物などの特異的損傷を生成するため突然変異誘発作用が強く、ヒト皮膚癌の主要な誘発因子である。UV損傷の修復に関わるヌクレオチド除去修復(NER)能に欠損のある遺伝病色素性乾皮症(XP)の患者は日光露光部に高頻度に皮膚癌を発生する。【本論】我々は突然変異検出用トランスジェニックマウス(Mutaマウス)を用いて、NER欠損XPモデルマウスの皮膚表皮でUVBによって誘発される突然変異を解析した。Xpg遺伝子exon15を欠失したXpg変異マウス、Xpaノックアウトマウス、及びXpcノックアウトマウスを用いたが、いずれのXPマウスも野生型マウスに比べ皮膚表皮で64PPの修復に欠損を示した。更にUVBで誘発される突然変異スペクトルを解析したところ、いずれのNER欠損マウスもC→TのUV特異的塩基置換が最も高頻度に発生することが認められ、この点では野生型マウスとよく似た変異スペクトルとなった。しかしNER欠損マウスは次の2点で野生型とは大きく異なっていた。ひとつはUV signature mutationとも呼ばれるCC→TTの並列塩基置換が高頻度に検出されたことで、XP細胞を用いたin vitro突然変異解析系で報告されているデータと一致した。もうひとつは従来は知られていなかったtriplet mutationというタイプの変異がNER能の欠損度合いに応じて検出されたことである。我々はtriplet mutationを、dipyrimidineを少なくともひとつ含むヌクレオチドが3個並んだ配列の中で、2~3個の1塩基置換または1塩基フレームシフト変異が発生して生じるタイプの変異と定義している。この新たに確認されたUV特異的突然変異はNER欠損によって顕著に出現する。我々はtriplet mutationをその塩基配列変異パターンからいくつかのタイプに分類し、それぞれの原因損傷や発生機構について損傷乗越えDNA合成(TLS)に基づくモデルを提唱する。
  • 日出間 純, 寺西 美佳, 高橋 正明, 熊谷 忠
    セッションID: WS4-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物は、UVBによって誘発されるシクロブタン型ピリミジン二量体 (CPD)を、主にCPD光回復酵素を介した光回復機構によって修復している。これまでに我々は、高等植物のUVB耐性機構に関する一連の解析を行い、(1)イネ品種間でのUVB抵抗性の違いは、CPD光回復酵素遺伝子の自然突然変異による酵素活性の変化に由来する、(2)CPD光回復酵素活性の増加は、UVBによる生育阻害を軽減させ、UVB抵抗性を増加させることなど見出した。しかしながら、このCPD光回復酵素の植物生体内での特性、機能に関しては未知な面が多い。本ワークショップでは、「植物におけるCPD光回復酵素の特性と機能」に関して話題提供する。
    (1)イネ生体内には、2つのアイソザイムが存在する イネCPD光回復酵素の生体内での特性を知るために、イネ葉から本酵素の精製を試みた。精製方法としては、陰イオン交換カラム、ヘパリンカラムを用いて精製した後、CPDを含むDNAが結合した磁気ビーズに通し結合したタンパク質を青色光照射によって遊離させた。この標品内には約54と56kDaのタンパク質が含まれており、ともにCPD光回復酵素であることが推定された。
    (2)イネCPD光回復酵素は、核、葉緑体、ミトコンドリアで機能している 本酵素の遺伝子上には核移行シグナル配列が存在するが、他のオルガネラへの移行が推定される既知の移行シグナル配列は認められないことから、核内でのCPD修復の主要な機能を担っていると考えられている。しかしながら、イネにおいては、各オルガネラ上に生成したCPDが、青色光に依存して光修復されることを見出した。さらに、この修復活性は、CPD光回復酵素活性を低下させたアンチセンス形質転換体では、著しく低下する。これらの結果から、イネにおいては、CPD光回復酵素が核、葉緑体、ミトコンドリアへ移行してCPD修復の機能を担っていることが示唆された。
低線量・低線量率放射線の生物影響の分子的解析
  • 内海 博司, 岩淵 邦芳, 高橋 昭久, 立花 章
    セッションID: WS5-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    [目的]一般に低線量率照射には分割照射の回復機構が関与していると考えられてきた。我々は、分割照射回復には、DSB修復系のエラーフリーのHR(相同組換)修復系が関与することを報告した。この成果は低線量率の生物影響はエラーフリーであると期待されたが、我々の低線量率実験では、むしろエラープローンのNHEJ系が重要であることが示された。さらなる低線量率実験の結果は、NHEJ系欠損細胞でも生存率の上昇がみられ、KUが関与するNHEJ系と異なるG1期DSB修復系の存在が示唆された。その新しい修復系を検証する。
     [方法]主に4種のニワトリBリンパ細胞株{親株(DT40)、HR修復系に関与するRad54遺伝子をノックアウトした細胞株、NHEJ修復系の遺伝子をノックアウトした細胞株、この両遺伝子をダブルノックアウトした細胞株}、および53BP1ノックアウトDT細胞株などを用いた。照射線源は、京大放生研の低線量率照射実験装置を共同利用した。高線量率(1Gy/min)照射に対して低線量率(1~0.1Gy/day)照射によって、これらの細胞の生存率の変化を比較検討した。
    [成果と考察]1Gy/dayより低線量率になるとKU系のNHEJ修復欠損株も生存率の上昇を始めた。しかし、0.5Gy/dayでの低線量率照射において、KU系のNHEJ修復とは異なる修復系に関与すると示唆された53BP1とKU70ダブルノックアウト細胞は、KU70ノックアウト細胞より生存率が低くなった。この結果は、53BP1が関与するG1期の新しいNHEJ修復系の存在が示唆された。
  • 中村 英亮, 安井 善宏, 齋藤 典子, 小林 純也, 立花 章, 小松 賢志, 石崎 寛治
    セッションID: WS5-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    我々は、hTERT遺伝子導入により不死化したヒト培養細胞株を用いて低線量率放射線被曝の影響を解析してきた。これらの細胞株は、初代培養細胞の特徴を維持しており、細胞周期をG0/G1に止め実験に用いることで、DNA2重鎖切断 (DSB)の修復経路のうちnon-homologous end-joining (NHEJ)のみを解析することができる。低線量率放射線は、京都大学放線生物研究センターにある低線量率放射線照射装置を用い、線量率0.3 mGy/minで照射し、高線量率放射線は、線量率2 Gy/minのX線照射装置を用いた。これまでに、正常細胞株では、低線量率放射線被曝に対して抵抗性を示すこと、また、AT細胞株では低線量率放射線被曝と高線量率放射線被曝では同様の生存率を示すことを報告した。また、γH2AXを利用したDSB修復の解析結果から、AT細胞株では、低線量率放射線被曝によるDSBが、ATM欠損のために充分に修復されず、生存率が高線量率放射線被曝時と同様であることが示された。しかしながら、低線量率放射線被曝により生じるDSBの修復経路、特に、NHEJでATMがどのように機能しているかは未だ解明されていない。そこで、今回、NHEJに関与する因子のうちArtemis、DNALigase4欠損の細胞株をhTERT遺伝子導入により不死化し、低線量率放射線被曝の影響を解析したので報告する。また、ATMのリン酸化に重要なNBSについても不死化欠損細胞株を作成し、解析した。本実験によって得られた結果は、低線量率放射線被曝によりできるDSBの修復経路の解明とその修復経路にATMがどのように関与しているかを明らかにすることができると考えられる。
  • 小倉 啓司, 馬替 純二, 川上 泰, 小穴 孝夫
    セッションID: WS5-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    放射線は総線量が同じでも線量率によって致死作用の強さが異なることは培養細胞ではよく知られており、ATM遺伝子が関与していることもわかっている。我々は個体レベルで線量率効果を調べるため、キイロショウジョウバエ野生型Canton-S系統の3齢幼虫にガンマ線照射して生存率を測定する実験をおこなった。50%致死を惹き起こす線量(LD50)は線量率36 Gy/hr以上の高線量率照射では36.1±1.5 Gyでほぼ一定であるが、36Gy/hr未満の場合には近似式35.7×log60(照射時間(分))-4.5Gyで表されるという結果を得た。100%致死は、3時間以内の照射では総線量が55Gy以下で起きたが、5時間を超える照射では55Gy以上照射しても生き残るものが認められた。これらの結果はショウジョウバエでの線量率効果の存在を明確に示した。さらに、ヒトATMホモログであり、DNAの2本鎖切断修復に関与することが知られている遺伝子であるmei-41の突然変異系統では線量率効果が消失した。一方、ヒトXPFのホモログであるmei-9では野生型に比べて感受性が高いものの線量率効果は認められた。この結果から、mei-41が関与する2本鎖切断修復機構が働くことによって線量率効果が起きることが示唆された。
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