日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第49回大会
セッションID: OR-5-4
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低線量
DNA損傷と細胞増殖死を関係付ける新しい標的モデルの試みについて
*山口 寛
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抄録
放射線の生物影響はDNA損傷によって引き起こされる。荷電粒子の細胞核への一飛跡により誘発されるDNA損傷の質と量は線量応答関係を考える上で基礎となる。このDNA損傷と生物障害を結びつける標的理論モデルはいろいろ提案されている。標的の定義が単純な形であったが、飛跡シミュレーションでは、DNA分子を、塩基、糖、バックボーンの領域に分けた詳しいいものになった。この論文では、この方向をさらに進め、DNAと水分子の分子構造をそのまま使う標的モデルを考えた。分子標的の上に5つのタイプのDNA損傷を定義し、それらの誘発頻度(確率)と細胞影響の観測度数とを関連付けるものである。DNA分子と周りの水分子の位置座標は分子モデリングで定義する。この分子標的に荷電粒子は直進し、飛跡に沿う原子と相互作用をする。それがDNAを構成する原子なら直接作用であり、水分子なら間接作用である。この組み合わせでDNA損傷は5つの生成モードに分類できる。周りの水分子の厚さが決まれば、各モードの潜在的生起数が勘定でき、また各モードには特有な原子間距離が存在するので、直進する放射線の平均自由行程(電離が起こって次の電離が起こるまでの平均距離)がこれらの距離にどれだけ近いかの程度から各モードの生起確率は評価できる。このモードの潜在数と生起確率から不活性化断面積(荷電粒子飛跡が細胞核を一本通過したときに生じる障害数)を計算できる。生物損傷としてAT細胞の増殖死を例にモデルの適用を試みた。その結果、実験値を説明できる水分子の厚さは3.7 – 4.3 nm と4.6 – 4.9 nmの2つの場合があり、これはDNAの高次構造に関係しているらしいこと、またAT細胞の解析結果にT1細胞の実験値を重ねてみると、回復不可能な致死損傷はもっぱら直接作用で作られているらしいこと、などの示唆が得られた。
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© 2006 日本放射線影響学会
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