抄録
p53遺伝子機能は、ゲノム守護神として、DNA損傷時の細胞周期進行制御やアポトーシス誘導を制御し細胞ががん化する過程を抑制すると考えられている。しかし、p53遺伝子機能の実態とがん化への関与は明確でない。そこで、本研究は、p53ノックアウトマウス胎児由来細胞を用いて、p53機能が細胞の不死化とがん化にどのように関わるかを明らかにするために計画した。本研究では、p53遺伝子正常およびノックアウトのC57BL系マウスの胎児からそれぞれ2系統、計4系統の細胞を分離した。その106個を10%牛胎児血清を含むMEM培養液でT75フラスコに植え込み5日毎に継代培養し、培養に伴うがん化形質の発現動態を調べた。その結果、継代7~9に一時的な増殖率の低下が観察されるが、p53遺伝子の有無にかかわらずすべての細胞が無限増殖能を獲得し、p53ノックアウト細胞は造腫瘍性を獲得した。がん形質の発現に伴っていずれの細胞でも染色体の異数化が見られたが、p53遺伝子ノックアウトでは、2~3継代期ですでに染色体異数化が起きており、染色体の構造異常が生じやすいことが判った。これらの結果から、P53遺伝子の有無が細胞の不死化とがん化にどのように関与するかに言及する。