抄録
UVBはシクロブタン型ピリミジン二量体 (CPD)といったDNA損傷を誘発する。植物は、生成したCPDを主に、CPD光回復酵素による光修復機構により修復しており、このCPD光回復酵素活性の高低は、植物のUVB抵抗性を決定している。一方、植物細胞には、核、葉緑体、ミトコンドリアが存在し、それぞれ固有のゲノムを有している。核ゲノムに生じるCPD は、CPD光回復酵素により修復されることが知られているが、他の2つのオルガネラについては未知である。これまで我々は、イネにおいては、核のみならず葉緑体やミトコンドリアDNA上に生成したCPDが青色光照射時間に依存して、修復している事実を見出した(日本放射線影響学会48回大会)。CPD光回復酵素の遺伝子は、核に1コピーでコードされている。したがって、イネにおいては、CPD光回復酵素が、核、葉緑体、ミトコンドリアにおいて、CPD修復の機能を担っている可能性を示唆した。
本研究では、核、葉緑体、ミトコンドリアに移行し、青色光に依存したCPD光修復に、CPD光回復酵素が関与しているかを明らかにするために、CPD光回復酵素活性の異なるイネ品種(ササニシキ、サージャンキ)、ならびに酵素活性を著しく低下させたアンチセンス形質転換体イネを用いて、各オルガネラでのCPD光修復速度の解析を行った。光回復酵素活性が高いイネ・ササニシキと低い・サージャンキを比較したところ、明らかに、核、ミトコンドリア、葉緑体でのCPD光修復速度はササニシキの方が高かった。また、アンチセンス形質転換体イネにおいては、各オルガネラでのCPD光修復活性は認められなかった。以上の結果から、核にコードされているCPD光回復酵素は、核、葉緑体、ミトコンドリアへ移行して各オルガネラDNA上に生成したCPDを修復する機能を有していることが強く示唆された。