抄録
低線量放射線のリスクを考える上で、放射線のバイスタンダー効果発現の機構およびバイスタンダー細胞の運命を理解することは重要である。本研究において、放射線によるバイスタンダー効果が、遺伝的不安定性を誘発するか否かについて解析を行った。実験には、非相同末端結合修復に異常を持つxrs5細胞を用いた。この細胞は、微小核生成頻度を指標にした時のバイスタンダー効果が大きく現れることがわかっている。まず、約30%の生存率を与える1 GyのX線を照射されたxrs5細胞の子孫細胞における微小核保持細胞の頻度を調べたところ、非照射細胞における微小核保持細胞の頻度と変わらないことがわかった。照射xrs5細胞の子孫細胞には遅延性影響は現れないことを示している。一方、照射細胞との共培養によりバイスタンダーシグナルを受けたと考えられる非照射細胞の遅延性影響について調べたところ、これらの子孫細胞では、微小核保持細胞の頻度が対照細胞よりも高いことがわかった。この結果は、放射線照射された細胞集団において、バイスタンダーシグナルを受け、なおも生存し続けた細胞が、遅延的に微小核を生成したことを示している。放射線により生成するバイスタンダーシグナルは遺伝的不安定性を誘発することが示唆された。