抄録
細胞機能に関する情報を与える核医学診断は形態学的診断と比較して早期に癌の治療効果判定を可能とする.実際,S-[methyl-11C]methionine (Met)を用いた核医学診断は重粒子線による癌の治療効果判定に汎用されている.しかし,炭素-11は半減期20分と短く,汎用性に乏しい.Metの集積には癌細胞内のエネルギー依存的なメチル基転位反応が関与するため,Metと同様の挙動を示す18Fあるいは123I標識薬剤の開発は困難である.そこで本研究では,癌治療効果の早期判定の指標となる新たな細胞機能を探索する目的で能動輸送を行うアミノ酸輸送システムAについて検討した.
アミノ酸輸送システムAの特異的な基質である14C-α-methylamino isobuthyric acid (MeAIB)を用いて,3 Gyの炭素線照射前後における腫瘍細胞への取り込み変化と細胞内総ATP量との関連をMetと比較した.さらに,炭素線照射前後の腫瘍細胞におけるMeAIBの膜輸送経路を検討した.炭素線照射後,腫瘍細胞数の減少よりも早期にMeAIBとMetの腫瘍細胞への取り込みが有意に減少し,細胞内総ATP量に変化は観られなかった.アミノ酸輸送システムLの阻害剤はMeAIBの取り込みに影響を与えず,炭素線照射後におけるMeAIBの取り込みの減少に伴いアミノ酸輸送システムAを介するMeAIBの取り込みが減少した.以上の結果は,細胞数変化また細胞内総ATP量変化よりも鋭敏にアミノ酸輸送システムA によるMeAIBの取り込みが減少したことを示し,アミノ酸輸送システムAの機能を反映する放射性薬剤は癌の治療効果の早期判定に有用であることを示唆する.